第六十四章 根本的に彼が掲げる矜持⑧
昂は恐らく、本気で際限なく巨大化するつもりだろう。
もし物理干渉ができるようになれば、その際に生じる被害損害は計り知れないものになるはずだ。
魔術の家系ではないのに魔術を行使する存在、舞波昂。
破天荒な彼は世間から秘匿されていた魔術を使って、様々な問題を生じさせていた。
昂が魔術を使う際に生じる危機は目に見えて増加してきている。
そして今も、こうして新たな問題が浮上していた。
「ただ、このままだと、大会会場が大変な状況になるのは確かだな」
元樹は現状を噛みしめるように確固たる事実を示した。
「ふむふむ、巨大化の魔術。これならば、我の存在を猛烈にアピールできる上、魔術の本家の者達すらも翻弄できるはずだ! まさに一石二鳥ではないか!」
「おい、昂!」
あまりにも突拍子のない、昂の型破りな作戦。
それを聞いたあかりは――進は慌てて車椅子を動かして昂の声がする方向に向かっていった。
「あかりちゃん、見るのだ! これが大きくなった我ーー」
「あのな、昂!」
居丈高な態度で今、まさに実行に移そうとしていた昂を、進は視線を巡らせながら必死に引き留めた。
「あかりちゃんに頼まれても、こればかりは譲れないのだーー!!」
「おい、昂! ステージで暴れるなよ!」
ところ構わず当たり散らす昂の姿を想像して、進が困り顔でたしなめる。
「我は意地でも、この場で巨大化を成し遂げてみせるのだ!!」
昂が全身全霊で拳を突き上げてそう叫ぶ。
一方、1年C組の担任、岩木銀河とその妻、汐に先導されて戻ってきた拓也と綾花は思わぬ状況に遭遇することになった。
「舞波は巨大化に相当、こだわっているな……」
「ふわわっ!」
彼らの背後に広がった情景は、茜色を写し取ったかのように幻想的だった。
麻白の心を宿した綾花も、彼女とともに生きる進も、彼女の側に立つ拓也達も、玄と大輝も、輝明と焔も。
憑依の儀式。
分魂の儀式。
そして、魔術の深淵に迫った軌跡の数々。
この場に再び、集まった者達は、あの日々を越えてここに集っていた。
まるで、すべての決着を終えたことを噛みしめるように――。
波乱を迎えた『エキシビションマッチ戦』から二ヶ月後の大会会場――。
魔術の家系ではない舞波昂くんが、魔術を使える理由。
やはり、その答えはこの世界の理を解く鍵になるようだ。
目の前に広がるその光景を見て、文哉は自分の考えが正しかったことを確信する。
魔術の家系が紡いだ、延々と続く危うい安寧を取るべきか。
もしくは綱渡りの如き、刹那の決意を取るべきか。
決められる強さは文哉にも他の魔術の家系の者達にもなく、胡乱な恐怖の中で今日という日は流れ続ける。
だが、昂の存在理由を知れば、魔術の家系の者達の行く末もいずれ判明するだろう。
「しかし、まさか、舞波昂くんと黒峯陽向くんが、『ラグナロック』の新たなチームメンバーの座を賭けて、この場でバトルをすることになるとはな」
昂と陽向が、『ラグナロック』の新たなチームメンバーの座を賭けて戦う。
その事実を掴んだ後の、魔術の本家の盛り上がりぷりは凄まじかった。




