第六十三章 根本的に彼が掲げる矜持⑦
「なっ!」
文哉が阻止しようと動くが、もう遅い。
「これで、我の勝ちなのだ!!」
昂は全力を振りしぼる。
極大魔術をもとにした大がかりな魔術の解除のために。
「くっ……」
文哉は一片の容赦もない昂の一振りをまともに受けたことで意識を手放した。
それによって、『極大魔術をもとにした大がかりな魔術』の効果は、完全に無効化は失われる。
その光景を目の当たりにした文月は感嘆の声をこぼす。
「文哉さんを倒してしまうなんて、すごいですね~」
「オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を想定した極大魔術。実に面白いです。僕達も使ってみたかったですね」
昂が振るった渾身の力に、夕薙は不思議な感慨を覚える。
極大魔術の力を目の当たりにすることで、以前、黒峯家の屋敷で戦った時の熱い気持ちが蘇ってくるようだった。
そこに追い打ちをかけるように、昂は自身の思いの丈をぶつけた。
『さあ、あかりちゃん、刮目してほしいのだ! これでようやく、魔術が使えるのだ。我がずっと使いたかった偉大なる魔術ーー』
緊迫した状況の夕薙と文月をよそに、ステージへと立った昂はビシッと天井を指差して言い放った。
『『対象の相手を大きくする』、つまり『対象の相手を小さくする』魔術の逆バージョンだ! その名のとおり、対象の相手を際限なく、大きくすることができるのだ!』
「ええっ!? あのあの、本当に、その魔術をこの場で使うつもりなんですか?」
余裕綽々で腕を組んでほくそ笑んでいる昂を見て、事態を把握した文月は慌てたように告げた。
「我に不可能はない」
昂は腰に手を当てると得意げに言う。
「舞波昂くん、いくら何でも、無茶ですよ~。このままだと、大会会場が崩壊しちゃいます」
「面白い子ですね、舞波昂くん。この状況で追い打ちをかけてくるとは。ただ、その手は悪手を打つことになるかと」
どこか抜けている文月の慌てぶりに続いて、夕薙からの警戒の眼差し。
ドヤ顔をした昂はそれを見越した上で徹頭徹尾、自分自身のためだけに行動を起こす。
「貴様らと話すことなどない。何度止められようと、大会会場を破壊するほど大きくなって、偉大なる我の存在を誇示しなくてはいけない、ということは口を裂けても言わないのだ!」
「舞波は、どんな状況に追い込まれても変わらないな」
どこまでも前向きな昂の発想に、元樹は思わず辟易する。
「そもそも我がいれば、魔術の本家の者など一捻りではないか! なにしろ、我は偉大なる未来の支配者なのだからな!」
「……まあ、舞波は存在自体が注目の的だからな」
昂の我田引水な意見に、元樹はもはや理論というより、直感でそう告げるしかなかった。




