第五十九章 根本的に彼が掲げる矜持③
輝明の力の加護の力を示せれば、魔術の分家である阿南家の存在を、他の魔術の家系にーー世間に認めさせることができるかもしれない。
そうすれば、この場にいる魔術の本家の者達は昂以上に、輝明のことを一目置くかもしれない。
心が凍りつくような感触のまま、焔はその推測が現実に変わることを確信していた。
「輝明、あなたを巻き込んでしまってごめんなさい。私は……黒峯蓮馬を止めることはできなかった……。でも、あなた達は、彼の意思を変えることができた」
「それを成し遂げたのはカケルだ」
断定する形で結んだ輝明の言葉に、カケルは目を見開いた。
「俺が……黒峯蓮馬さんの意思を変えた……?」
輝明が何を考えて、そう告げたのかまでは分からない。
玄の父親の背景に、どんな出来事があったのかも知らない。
しかし、カケルは明確に、先程の光景を脳裏によぎらせていた。
「三崎カケルくん、彼を救ってくれてありがとう」
輝明の母親は改めて、カケルと向き合うと、感謝の念を示した。
「これからも、輝明のこと、よろしくね」
「……はい!」
それはまるで、祈りを捧げるような想いだった。
輝明の母親のその言葉は、今までのどの言葉よりもカケルの心に突き刺さる。
「もう一度、最後にとっておきをやる」
輝明は目を伏せて自身が使役する自動人形に神経を集中した。
そして、昂の透視化の固有スキルを強化することへと意識を向ける。
だが、これは極大魔術をもとにした大がかりな魔術を解除するためだけの戦いではない。
魔術の妨害に屈せず、現状を打開するための戦いだ。
「黒峯文哉さん達が戦いに目を向けている間、僕達は極大魔術をもとにした大がかりな魔術を解除するために、徹底的に動いていけばいい」
「ああ、そうだな」
静かな言葉に込められた有無を言わせぬ強い意思。
輝明の凛とした声に呼応するように、車椅子を動かしたあかりーー進は決意を新たにした。
「輝明、無理はしないで……」
その苛烈な戦いの模様を、輝明の母親は祈るように見守っている。
(我は如何なる障害にも決して負けぬ……。我はーー)
昂の心に感情がゆっくりと沁み出してくる。
決して譲れぬ彼なりの矜持があるのだ。
昂の強靭な精神はある意味、超常の領域とも言える。
例え、どれだけ相手が手強くても。
例え、どれだけ相手が高尚な身分だろうが。
「我は、我のやり方で我の力を誇示してみせるのだ!」
昂のその滾る感情は、この場を思いっきり暴れるための熱量へと変わった。




