第五十八章 根本的に彼が掲げる矜持②
「決まっているであろう。偉大なる我の実力なら、貴様らに不意討ちを仕掛けたり、透視化の固有スキルで、貴様らの魔術を打ち破ることなど朝飯前だ!」
昂が全身全霊で拳を突き上げてそう叫ぶ。
彼の背後に広がった情景は、茜色を写し取ったかのように幻想的だった。
麻白の心を宿した綾花も、彼女とともに生きる進も、彼女の側に立つ拓也達も、玄と大輝も、輝明と焔も。
憑依の儀式。
分魂の儀式。
そして、魔術の深淵に迫った軌跡の数々。
この場にいる者達は、あの日々を越えてここに集っていた。
すべての決着をつけるために――。
「舞波は、どんな状況に追い込まれても変わらないな」
どこまでも前向きな昂の発想に、元樹は思わず辟易する。
「そもそも我がいれば、魔術の本家の者など一捻りではないか! なにしろ、我は偉大なる未来の支配者なのだからな!」
「……まあ、舞波は存在自体が注目の的だからな」
昂の我田引水な意見に、元樹はもはや理論というより、直感でそう告げるしかなかった。
改めて、意識を切り替えた元樹は息巻く昂に対して根本的な直言を口にする。
「舞波。俺は魔術の本家の人達より、おまえの魔術の方が強力だと思う」
「うむ、確かにな」
核心に迫る元樹の弁に、昂は納得したように頷いてみせる。
呆気に取られている進に目配りしてみせると、元樹はさらに続けた。
「だからこそ、舞波、おまえの実力を披露するために、輝明さんの加護に受けてほしい。現状を打破するためには、おまえの力が必要不可欠になる。恐らく、おまえの透視化の固有スキルが、さらなる真価を発揮しないと、すべての決着をつけることはできそうもないからな」
「なるほどな。ついに我の真の力を世間に流布する時が来たというわけだな」
元樹が示した妙案に、昂は腕を組むとこの上なく不敵な笑みを浮かべる。
「よかろう! 我が必ず、魔術の本家の者達の魔術を打ち破ってみせるのだ!」
「ありがとうな、舞波。俺達もできる限りのフォローをするな」
元樹の感謝の意に、昂は腰に手を当てると得意げに胸を張る。
「舞波昂くん、想像以上に未知数の力の持ち主のようだな」
状況は思っていたよりも複雑で混線しているのだと文哉は頭を抱えた。
どれが真実で、どれが虚実なのか。
昂の行動理念に解を示してくれる人がこの場に一人でも居てくれれば、と文哉はそう願わずにはいられなかった。
だが、もちろんそんな人物が存在するはずもなく、昂の行動理念の謎解きは平行線を辿った。
昂の勇住邁進な精神。
しかし、少なくとも、文哉達には理解しがたい光景。
そして、綾花達にとっては日常茶飯事であるその光景に、焔は然したる興味を示さなかった。




