第五十七章 根本的に彼が掲げる矜持①
魔術の本家の者達である由良文月の魔術をもとにした、極大魔術をもとにした大がかりな魔術。
昂達を翻弄するほどの効果。
だが、輝明達だけは、この魔術を無効化することができる。
そしてーー。
元樹のその疑問は論理を促進し、思考を加速させる。
そうして、導き出された結論は、元樹が今の今まで考えもしない形をとった。
「舞波の透視化の固有スキルは、魔術の結界を無効化できたよな。輝明さん達は、極大魔術をもとにした大がかりな魔術を無効化して、魔術を使うことができる。だったら、輝明さんの加護の恩恵を受けた舞波の透視化の固有スキルの重ね技なら、極大魔術をもとにした大がかりな魔術を完全に無効化できるんじゃないのか」
「……むっ!」
予想外な真実を突き付けられて、昂が目を見開く。
「確かに、そうかもしれませんね~」
確かめるような問いをぶつけた元樹に対して、文月は不意を打たれたような顔をした後、すぐに平静を装った。
「でも、そんな簡単に行くとは思わない方がーー」
「我はそんなことはどうでもいいのだ!」
「……わぷ!?」
奇襲を仕掛けてきた第三者の声に、ようやく状況に気づいた文月は間の抜けた声を上げる。
強靭な猛撃の嵐が文月を後方へと吹き飛ばす。
「我の魔術を何度も封じた罪は重いと知るべきだ!」
奇襲を仕掛けてきた存在ーーそれは戦意に満ち溢れた昂だった。
「素晴らしい、素晴らしいぞ、我の透視化の固有スキルによる猛攻は!」
期せずして始まった昂の語り口。
文月は躊躇いの色を滲ませたまま、身ぶり手振りで当たり散らす昂を見つめる。
「我の透視化の固有スキルが、すべての決着をつける切り札。まさに我は真の意味で、魔術の本家の者達をも翻弄する、偉大なる未来の支配者になったのではないか!」
「……予測不能な行動だな」
昂の熱意がこもった発意に、元樹は少なからず、驚異の念を抱いていた。
「舞波の行動を読むのは、由良文月さんでも厳しいだろうな」
元樹は戸惑いを振り払うように、文月の動向に注視する。
「あのあの、いつから不意討ちを仕掛けようとしたんですか?」
「むっ、決まっているではないか。貴様が我から目を離した時だ!」
文月の慌てぶりに、昂は傲岸不遜な態度で率直な意見を述べる。
「……いや、舞波のことだから、出たとこ勝負だった可能性が高いな」
確信を込めて静かに告げられた元樹の問いは、驚愕する文月へと向けられていた。
「舞波昂くん、もう、不意討ちしちゃうの早すぎですよ~。私、これでも必死に周囲に目を向けていましたもん」
「面白い子ですね、舞波昂くん。魔術を封じられても、すぐに対抗してくるとは。あの不屈の精神は素晴らしいです」
どこか抜けている文月の賛美に続いて、夕薙からの真摯な称賛。
ドヤ顔をした昂はそれを見越した上で徹頭徹尾、自分自身のためだけに行動を起こす。




