第五十六章 根本的に涙が止まらない⑧
『ネフェルティティ・ブレイク!!』
「ーーっ」
それはオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』で大輝のキャラが使っている必殺の連携技。
大輝の必殺の連携技の発動に、文哉は更なる驚愕の表情を浮かべる。
「むっ! 無効化、そんなことができるなど、ずるいのだ!」
昂は不可解な現象に目を見開いた。
極大魔術をもとにした大がかりな魔術。
それは文月が操る魔術をもとにしたものだった。
『星と月のソナタ』。
この魔術が発現した場合、昂や輝明達は魔術の発動ができない。
元樹の魔術道具の発動さえも封じられてしまう厄介な代物だった。
それを大がかりなものにしたことで、この場にいる昂達全員に効果が及ぶ魔術になっている。
それなのに、輝明達は魔術が使えて、自分は使えない。
腑に落ちない現状に不満を抱いていた。
輝明さんの力。
極大魔術をもとにした大がかりな魔術を無効化できるのは心強いな。
そんな有利な状況の中、元樹は戦局を変える突破口を開くために模索する。
だが、その思考を掻き消す声が会場内に響き渡った。
「我は納得いかぬ。あの者達は魔術を発動できたというのに何故、我の魔術は発動しないのだ!」
昂は地団駄を踏んでわめき散らしていた。
その理由は、文月の魔術によって、自身の魔術を封じられてしまったからである。
昂は文月に対して、猛撃と魔術による攻撃を転じていた。
しかし、文月の魔術で魔術の発動を封じられてしまった影響で、逆に彼女から手痛い反撃を食らってしまったのだ。
「なるほどな」
昂と連携していた元樹は、今までの現状を纏める。
「少なくとも、これで黒峯文哉さん達の極大魔術の優位性はなくなったな」
元樹は置かれた状況を踏まえて思案した。
「あとは、黒峯文哉さん達が使っている『極大魔術をもとにした大がかりな魔術』を完全に解除するだけだ。そうすれば、黒峯文哉さん達をこの場から離脱させることができるはずだ……」
そんな元樹の不安を拭うように、輝明は情念の想いを燃やす。
「どんな状況からでも諦めないのが、おまえ達の強さなんだろう」
「ああ。だけど、どうすれば……」
元樹が生じた疑問の答えは遅滞する事なく、輝明によって示された。
「全てを覆せばいい。現状を打開したいんだろう。なら、それを示せばいい」
「ーーっ」
輝明の気迫は、元樹の心を奮い立たせる。
「俺達、阿南家は魔術の影響を受け付けない。なら、それに興じて、極大魔術をもとにした大がかりな魔術を解除すればいい」
それが、今の魔術という名の戦場の様相。
輝明のその声は静かに場を支配した。
元樹達を取り巻く周囲の空気が変わる。




