第五十四章 根本的に涙が止まらない⑥
「どうやら、黒峯蓮馬さんが抱えていた問題は解決に向かったみたいですね」
その様子を傍観していた夕薙が真剣な声音でつぶやく。
「黒峯蓮馬さんはもう、彼らと争うつもりはなさそうです。彼らの対処は、文哉さんに委ねることになりそうですね」
「そうなりますね~」
確かめるような問いをぶつけた夕薙に対して、頬に手を当てた文月が上機嫌にはにかんだ。
その時ーー
「おいおい、よそ見していていいのかよ!」
「……わぷ!?」
奇襲を仕掛けてきた第三者の声に、ようやく状況に気づいた文月は間の抜けた声を上げる。
その間隙を突くように、焔が使えないはずの『暴虐の魔術』を駆使してきたからだ。
「えへへ……、油断大敵ですね~。とはいえ、今は『私達以外は魔術が使えない状態』ですよ」
文月は不意を突かれたような顔をした後、目をぱちくりと瞬いた。
極大魔術をもとにした大がかりな魔術。
それは文月が操る魔術をもとにしたものだった。
『星と月のソナタ』。
この魔術が発現した場合、昂や輝明達は魔術の発動ができない。
元樹の魔術道具の発動さえも封じられてしまう厄介な代物だった。
それを大がかりなものにしたことで、この場にいる昂達全員に効果が及ぶ魔術になっていた。
魔術が使えなくなったことで、昂達はゲームの技による乱打戦を駆使している。
もちろん、焔にも影響が生じている。
それなのにーー焔は自由自在に魔術を駆使していた。
思わぬ展開を前にして、文月はたじろいでいた。
「あのあの、どうしてですか?」
「俺達、阿南家は魔術の影響を受け付けない。たとえ、極大魔術をもとにした大がかりな魔術だとしても、輝明なら、それを無効化にすることなんて動作もねえからな」
置かれた状況を踏まえた焔は明確な事実を述べる。
「由良文月、そして、プロゲーマー達。僕達のチームに勝ったことを、今度こそ後悔させてやる」
そのどこか抜けている文月の行動に、状況を把握していた輝明は不満そうに言う。
「輝明は、極大魔術をもとにした大がかりな魔術を無効化することができるのか?」
カケルの疑問は、輝明からすれば愚問だった。
「どうして、できないと思った?」
「……何も、言わなかったから」
「うるさい!」
苛立ちの混じった輝明の声にも、花菜は淡々と表情一つ変えずに続ける。
「輝明の力があれば、絶対に勝てる」
それとなく、視線をそらした花菜はまるで照れているかのように俯いた。
文月と夕薙、そして文哉には恐らく、どんな作戦も通じない。
だからこそ、『魔術の本家』という牙城を崩すために立ち向かう。
そして、魔術によって蝕まれた状況を打破するためにーー。




