第五十三章 根本的に涙が止まらない⑤
「それにしてもまさか、昂くんと『ラグナロック』のチームメンバーの座をかけて対戦することになるなんて思わなかったな」
昂の意気がる様子を眺めながら、陽向は深く大きなため息をついた。
「でも、昂くんと輝明くんの力を、それに極大魔術を垣間見ることができたから満足かな……」
徐々に薄れていく自身の姿を確認した陽向は意気消沈する。
「ねえ、昂くん。僕達は、麻白を取り戻すことは諦めたけど、昂くんの持っている魔術書は諦めていないからね」
「むっ!」
陽向の矜持と決意。
陽向は改めて、意気込んでいる昂に催促した。
「昂くん。次こそは君の魔術書は全て、僕がもらうからね。もっとも今、もらえると嬉しいな」
「我の魔術書を、誰にも渡すはずがなかろう!」
陽向の申し出に、昂が拳を突き上げながら地団駄を踏んで喚き散らす。
「我は魔術書を自由自在に読み明かし、なおかつ魔術書を守りたいのだ。その上で、黒峯陽向をゲームで返り討ちにしてくれよう。そして、綾花ちゃんとあかりちゃんと麻白ちゃんを今度こそ、我の恋人にしてみせるのだ!!」
「……あのな。無茶苦茶なことを言うなよ」
無謀無策、向こう見ずなことを次々と挙げていく率直極まりない昂の型破りな思考回路に、元樹は抗議の視線を送る。
昂が絶対的な勝利を確信し、断言するーーその姿を視界に収めた陽向は身も蓋も無く切り出した。
「でも、昂くん。今回、僕を返り討ちするのは無理じゃないかな。僕はもうすぐ、消えるから」
「そんなことはどうでもいい! 今すぐ、我の魔術書を置いて、ここから立ち去るのだーー!!」
撤退姿勢を取る陽向を前にして、昂は臨戦態勢を展開すると言わんばかりに両手を広げて目を見開いた。
陽向はそれを無視すると、進に対して宣戦布告をする。
「雅山さん、ううん、上岡くん。また、会おうね。今度は、僕達、『ラグナロック』が勝つからね」
「ああ。俺達、『ラ・ピュセル』も負けないからな」
偽りなく告げられる確固たる意思。
陽向の発言に、進はこの上なく、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「おのれ~、黒峯陽向! 我との決着の前に、『ラグナロック』だと名乗るのは許さないのだ!」
昂の叫びをよそに、陽向はそのまま、その場から姿を消していったのだった。




