第五十二章 根本的に涙が止まらない④
「……うん。僕は『ラグナロック』に入りたい。玄と大輝と麻白と……もう一度、やり直したい」
幼い頃の玄と麻白と大輝の姿が子守唄のように陽向の心を揺り動かす。
あの日からずっとその手を掴めないのが麻白達だった。
そう、陽向は思っていた。
そして、それは正しくて、同時に間違いでもあった。
陽向が掴んだものは過去の希望ではなかった。
みんなと新たな未来を紡ぐ明日という光だった。
何時か来る明日を信じて待つために、陽向は今の麻白ーー綾花達と向き合う覚悟を決めた。
しかし、その答えに納得していない者もいる。
「むっ、黒峯陽向が『ラグナロック』に入るだと……!?」
昂にとって、それは全く予想だにしていなかった出来事だった。
「待つべきだ! 我の方が実力は上なのだ! 黒峯陽向より、はるかに上なのだ!」
陽向の言葉を聞きつけて、昂は即座に地団駄を踏んで否定した。
「黒峯陽向。チームメンバーの座をかけて、今すぐ勝負するべきだ!」
「うん。昂くん、楽しみにしているよ。でも、今の昂くんはだいぶ順位が落ちているよね。僕を相手をするのは厳しいんじゃないかな」
「おのれ~。黒峯陽向、余裕綽々なのも、今のうちなのだ!」
勇み立つ昂の奮闘に応えるように、陽向は玄達の隣に並び立つ。
「黒峯陽向。貴様は今日、ここで我が引導を渡してやるのだ! 綾花ちゃんと我の魔術書は必ず、守ってみせるのだ! 悔い改めて、チームメンバーの座を諦めるのなら、今のうちだと考えるべきだ!」
「うーん。僕は諦めるつもりはないよ」
昂の挑発めいた発言に、陽向はきっぱりと応えた。
二人はバチバチと火花を散らす。
もはや、先程までの緊迫した雰囲気はない。
その光景はどこまでも穏やかだった。
「黒峯陽向! 今から思う存分、我の実力の凄さを知らしめてやるのだ!」
「あ……でも……」
事情を察すると同時に、陽向は残念そうに首を振った。
「うーん、昂くん。残念だけど、それは叶わないかな……」
「むっ! 貴様、どういうことなのだ!!」
陽向の否定に、昂は警戒するように両手を前に突き出す。
「僕は叔父さんの魔術の知識の力で、この場に顕在化している。そろそろ時間切れみたいだ」
「我は納得いかぬ! 貴様、またしても勝ち逃げするつもりなのか!」
「僕も納得できないから、とりあえず今度、対戦しよう」
捲し立てる昂の言葉を遮り、陽向は戦意を固める。




