第五十一章 根本的に涙が止まらない③
「麻白は、自分自身でもある瀬生綾花さん、上岡進くんの心を消してしまうことを快く思っていない。麻白は、今の状態のままで、これからも生きていきたいんだ」
「玄、大輝。麻白は、今の状態のままで……本当にいいのかな……」
玄を一瞥した陽向はゆっくりと笑みを作り上げてからーー表情を消した。
「僕達は、前のような関係に戻れるのかな……」
「当たり前だろう!」
哀切を込めた疑問に対して、大輝はその答えを持っていた。
「……俺達は、陽向のそばにいる」
「麻白がどんなかたちで生き返ったとしても、たとえ、ずっとそばにいられなくても、俺達はこれからもずっと一緒だからな」
「……うん」
求めていたからこそ、陽向にとって、玄と大輝の解は眩しく思えた。
「そろそろ、俺達『ラグナロック』も、チームメンバーを増やした方がいいかもな」
大輝はそう言って空笑いを響かせると、ほんの一瞬、複雑そうな表情を浮かべる。
「『ラグナロック』の新たなチームメンバーだと?」
その言葉を聞きつけて、戦闘を切り上げた昂は思いついた名案を披露した。
「ふむ? ならば、我が、貴様らのチームに入っても構わぬ」
「そ、それだけは、絶対にだめだからな!」
昂の尊大な提案に、大輝は不服そうに目を細めてから両拳をぎゅっと握りしめた。
「大輝らしいな」
笑ったような、驚いたような。
あらゆる感情の混ざった声が、玄の口からこぼれ落ちる。
二人のやり取りを前にして、玄は高ぶっていた心を落ち着かせた。
少し間を置いた後、玄は大輝と会話を交わしながらもずっと思考していた疑問をストレートに言葉に乗せる。
「……陽向。俺達のチームに入らないか?」
「『ラグナロック』に?」
思わぬ誘いに、陽向は目を瞬いた。
「……玄と大輝。僕で本当にいいのかな? 僕はずっと、みんなを苦しめてきたのに……」
陽向は思わず躊躇うようにつぶやく。
「な、何だよ、それ?」
大輝は思わず、唇を噛みしめると、やり場のない苛立ちを少しでも発散させるために拳を強く握りしめる。
「陽向だから、誘っているんだろう!」
大輝にとって、答えはそれだけで事足りた。
「麻白だって、陽向が入ると知ったら、絶対に大喜びするはずだからな!」
「…………っ」
大輝がそう発した瞬間、涙の気配が陽向の瞳の奥に生まれる。
それでも涙が零れなかったのは何物にも代えがたい玄と大輝の温もりがあったから――。




