第五十章 根本的に涙が止まらない②
「黒峯麻白さんを救う方法を、一緒に探したいんです! あなた達とともに!」
「――っ」
それが耳に届いた瞬間、玄の父親は膝から崩れ折れた。
積年の想いが、涙となって零れた。
そこから堰を切ったように、涙が流れ続ける。
『黒峯蓮馬。あなたはもしかして、三崎カケルに黒峯麻白を救ってほしいと思っているのではないのですか?』
先程の輝明の母親の声が、頭の中で渦巻く。
娘を想い、その幸せを願う。
それが玄の父親の本来の望みだったから――。
決して、痛み分けをしたかったでもない。
今までのことをなかったことにできるくらい、許されたかったわけでもない。
ただ変わらず、家族として、そこに居ていいんだと言ってほしかった。
家族であることに変わりはないと思いたかった。
「麻白は……苦しむために生まれてきたんじゃない。麻白は幸せになるために生まれてきたんだ……」
ずっと諦めるばかりだった答えを、ようやく探し求めることができそうな気がする。
玄の父親は恐れを飲み込み、カケルに手を伸ばす。
カケルもまた、その手を握り返す。
「三崎カケルくん、頼む。麻白を救うために、君達の力を貸してほしい」
「はい」
カケルの表情はどこまでも迷いがなくて。
見方が変われば、こんなにも違って見えるのか、と玄の父親は目を瞬かせる。
先行きの分からない未来。
だけど、何も見えなくても、カケルはたった一筋の光を信じている。
今は小さな光でも、いつか立ち向かう力となる……そんな自信をくれる瞳。
それは自分を認めてあげるための、勇気の輝きだった。
「叔父さん……」
「陽向」
呆然とする陽向に向かって、あかり――進は車椅子を動かした。
「麻白はたとえ、このままでも消えたりすることはないからな。これからも陽向達と一緒だ」
「……これからも」
平坦なのに無性に熱を感じる言葉に、陽向は表情を強張らせる。
陽向の明らかな戸惑いを目にして、玄は少し躊躇うようにため息を吐くと、複雑な想いを滲ませた。
「陽向」
不意に玄に声をかけられて、陽向はびくりと肩を震わせた。
「麻白は、麻白としてしか生きられない。それと同じように、瀬生綾花さんも瀬生綾花さんとして、上岡進くんも上岡進くんとしてしか生きられないんだ」
陽向は顔を伏せたまま、何も言わなかった。
それでも、想いがそのまま形になるように、とめどなく言葉が、玄の心に溢れてくる。




