第四十三章 根本的に現実に向き合う時③
輝明が導いた一意専心な方向性。
だが、昂は右顧左眄して煮え切らない発言を繰り返していた。
「我は納得いかぬ! 黒峯蓮馬には一泡吹かせた後で、我に今までの狼藉を誠心誠意、謝罪してもらうべきだ!」
「……っ」
持論を掲げる昂に何かを言い返そうとした元樹の声は、結局発されることは無かった。
言葉だけでの反論は幾らでもできたであろう。
だけど、その心が追随することはないと彼自身が理解していたから。
綾花と進。
あかりと麻白。
綾花への恋情。
それは綾花が四人分生きることになっても、変わる事のない不変の恋慕。
俺達は必ず、綾達を守ってみせる!
元樹は不撓不屈の意思を示す。
綾花達の想いが希望を齎す未来へと繋がるために。
そして、満たされていく胸の決意を示すために。
身体を張って前に出ると、元樹は輝明達と連携して、会場を後にした拓也と綾花を守るために動いていく。
だが、そこにわずかに不協和音が生じた。
「むっ、我を差し置いて、黒峯蓮馬と決着をつけようとしているだと! 何者だ、この偉そうな者は!」
カケルを見た昂が、不本意とばかりに足を止めたのだ。
「おまえ、これまでずっと、一緒に戦ってきただろう」
そんな昂の反応を見て、元樹は呆れたようにため息をついた。
昂は、カケルと何度か遭遇している。
だが、戦うことに夢中で、周りが見えていなかった。
「我は納得いかぬ。何故、我が黒峯蓮馬を打ち倒す決め手ではないのだ!」
昂は地団駄を踏んでわめき散らしていた。
「決め手?」
「我は偉大なる未来の支配者だからな」
カケルの戸惑いに、腕を組んだ昂は誇らしげにそう応える。
「偉大なる未来の支配者? やはり、危険な存在なのでは?」
「舞波昂は末恐ろしい存在なのでは?」
阿南家の者達の間で様々な流言飛語が飛び交う。
渦巻く陰謀と魔術が取り巻く異常性。
昂が華々しく語っている間にも、それはこの世界の裏側で蠢いている。
話が頓挫したように感じ、カケルは改めて切り出した。
「あの……」
昂を見つめるカケルの瞳には、複雑な感情が渦巻いていた。
「頼む。俺に力を貸してほしい。黒峯麻白さんの力になりたいんだ」
「むっ。我の力を借りたいということは、貴様、我の熱烈なファンであろう」
無策無謀、愚の骨頂。
それらと縁の深い昂は的外れな意見を口にする。
「仕方ない。我の力を貸してやってもいい。ただしーー」
そうーー決して譲れぬ昂なりの矜持があるのだ。
昂の強靭な精神はある意味、超常の領域とも言える。




