第四十一章 根本的に現実に向き合う時①
「どんな状況からでも諦めないのがおまえ達の強さなんだろう」
「だけど、どうすれば……」
拓也が生じた疑問の答えは遅滞する事なく、輝明によって示された。
「全てを覆せばいい。彼女を守りたいんだろう。なら、それを示せばいい」
「ーーっ」
輝明の気迫に、拓也は一瞬、気後れする。
大切な人と同じ時間を過ごせるということは、どれだけ幸せなことなんだろう。
拓也がまだ幼い頃から、淋しい時や楽しい時、いつも傍にいてくれた女の子。
ずっと一緒にいられると思っていたのに、今は魔術によって、綾花と引き離されようとしている。
なら、拓也のやることは一つだけだ。
「分かった。先生、サポートをお願いします!」
「たあっ!」
聞き覚えのあるその声は、拓也達以外は全く予想だにしない言葉だった。
大会会場の天井から颯爽と降りてきた武道家風の女性ーー岩木汐は、綾花と拓也の腕を掴むと踵を返して駆け出した。
ーーそう。
汐の先導によって、綾花と拓也はその場から離れただけだった。
だが、それだけで、綾花達は美里達の包囲網から逃れることに成功していた。
「なっ?」
思わぬ展開を目の当たりにして、玄の父親は驚愕する。
「汐、任せろ!」
「ダーリン、こちらは任せて!」
取り囲もうとしてきた警備員達を、汐は駆けつけてきた夫の1年C組の担任とともに振り払っていく。
「岩木銀河、岩木汐。あなた方は相変わらず、手強いですね。瀬生綾花さん。いい加減、彼女を渡してもらいます!」
綾花と拓也を追いかけて、警備員達とともにいた美里が1年C組の担任達のもとへと駆け込んでくる。
美里達の追手に対して、1年C組の担任、岩木銀河がとった行動は早かった。
「汐、後は頼む!」
「うん、ダーリン」
綾花達の護衛を汐に任せると、1年C組の担任、岩木銀河は大会会場の床を蹴った。
そして、警備員達の前まで移動する。
その見え透いた挙動に、警備員達の反応が完全に遅れたーーその時だった。
銀河は警備員達に素早く接敵すると、多彩な技を駆使して次々と警備員達を倒していく。
次の瞬間、美里の目に映ったのは床に倒れ伏す警備員達の姿と、冷然と立つ銀河の背中だった。
「汐、極大魔術をもとにした大がかりな魔術の影響で魔術が使えない今、ここから出られるはずだ。阿南家の方々の力を借りながら、瀬生と井上を連れて、会場の外まで移動しよう」
「ダーリンの頼みなら、仕方ないっていうか」
きっぱりと告げられた言葉に、汐は恥じらうように頬を赤く染める。
「待ちなさい……っ!」
美里が倒れている警備員達を避けて怯んでいるその隙に、銀河と汐は、綾花と拓也に連れ添って会場の外へと駆け出していった。




