第四十章 根本的に彼の確固たる強さ⑧
その日は、久しぶりに家族全員で外食をした日だった。
しかし、喜びは悲しみに包まれ、楽しかったはずの家族の団欒は深い絶望感に襲われていた。
麻白が死んだ日、カケルのありふれた日常は呆気なく終わりを迎えた。
だけど、あの時、あの瞬間ーー。
『あたしは生きている。ちゃんと生きているから』
『ーーーーーーーっ!』
その麻白の言葉を聞いた瞬間に、カケルの心の中で何かが決壊する。
あの日、カケルは荒れ回る気持ちのままに泣き叫んだ。
拳を握りしめて、地面に突っ伏して、カケルはいつまでもいつまでも慟哭を響かせる。
そして、決意を固めたのだ。
麻白のために力になりたいーー。
そのために強くなりたいーー。
そう願い、輝明と関わったことで、自分の世界は確かに変わったのだから。
「カケル…‥、僕はおまえを信じている…‥」
そんなカケルを勇気づけるように、輝明は肩をポンと叩いた。
その後ろで、ちょこんとカケルの服の裾を摘むようにした花菜が物言いたげな表情を浮かべている。
そんな中、大輝はそっぽを向くと、軽く息を吐いて言う。
「麻白を救うのは、俺達だからな」
「大輝らしいな」
「カケルくん……」
玄はため息を吐きながらも、カケルのことを心配そうに見つめる綾花の頭を優しく撫でる。
この残酷な世界で、大切な人を奪われた世界で、ありふれた日常を奪われた世界でーー。
玄の父親が抱えていた長い長い悪夢は、ようやく転機を迎えようとしていた。
俺は黒峯麻白さんのためにできることをしたいーー。
たとえ僅かな助力だとしても、カケルは麻白のために足掻きたい。
立ち止まって、後ろを向いて、『これまで』を積み重ねて。
でも、それは全部『これから』のためだから。停滞することとは絶対に違うからーー。
「黒峯麻白さん、ここは俺達に任せてほしい! 現実に向き合う覚悟はできているから!」
それでも永遠に枯れることのない想いを込めて。
カケルは自身の矜持を貫いた。
「カケルくん、ありがとう」
花が綻ぶような綾花の笑み。
それはカケルの頭を撫でるように優しい声音だった。
「少なくとも、これで陽向くん達は、綾花を完全に麻白にすることができる魔術を使うことはできないな」
拓也は置かれた状況を踏まえて思案する。
「あとは、黒峯文哉さん達が使っている『極大魔術をもとにした大がかりな魔術』の対処だ。あの魔術の打ち消す手段が分からないと打つ手がないな」
そんな拓也の不安を拭うように、輝明は情念の想いを燃やした。




