第三十九章 根本的に彼の確固たる強さ⑦
そんな玄の父親を見かねたように、文哉は拓也達に足を向けた。
「さて、舞波昂くんが行使した極大魔術。あの力だけだ。私達の魔術に対抗できる力は」
文哉は言を紡ぎ、魔術を展開する。
それは『魔術』というよりも一種の『芸術』だった。
「黒峯文哉さんの魔術……」
「…‥たっくん」
思わず、身構えてしまった拓也の張り詰めた心持ちに呼応するように、綾花が不安を滲ませる。
拓也は出来るだけ適当さを感じさせない声で応えた。
「心配するな、綾花。俺達にはまだ、舞波の行使した極大魔術の効果が生じている。あの極大魔術の効果なら、俺達もみんなの力になれるはずだ」
「……うん」
拓也の説明を聞きながら、綾花は想いを噛みしめるように頷いた。
「ふむ。極大魔術をもとにした大がかりな魔術。思っていたより、使い勝手がいい」
「えへへ……、本当ですね~。私達だけ、魔術を使える状況にする力なんてすごいです~」
魔術の深淵を覗くような文哉の言葉に、文月が上機嫌にはにかんだ。
玄の父親が明らかに戸惑う状況。
その光景を目の当たりにした元樹は思考を加速させる。
「黒峯蓮馬さんの目的は、綾を完全に麻白にすることができる魔術を行使することだ。だけど、極大魔術をもとにした大がかりな魔術の効果で、陽向くんは魔術が使えない。それに輝明さんの加護がある」
綾花を完全に麻白にすることができる魔術書。
その魔術の効果を、元樹は前に起きた現象で否応なしに目の当たりした。
だが、今回は輝明の加護がある。
そして、極大魔術をもとにした大がかりな魔術の影響で、玄の父親達はその魔術を使うことはできない。
今なら、打つ手はあるはずだ。
何とかして、この場を切り抜けないとな。
元樹は魔術道具をまじまじと見つめる。
今は魔術道具の効果も発動しない。
だが、元樹には陸上部できたえた持ち前の運動神経がある。
「拓也、綾のことを頼むな」
「ああ、分かったーー」
拓也はすぐに状況を理解し、綾花とともにカケル達のもとへ動き始めた。
「俺が……黒峯麻白さんを救う?」
輝明の母親が打ち明けた言葉に、カケルは呆気に取られていた。
改めて、あの日の出来事を呼び起こす。
流れ出る血は止まらない。
その日、カケルの父親が運転していた車に轢かれて、麻白は路上に倒れていた。
雨に打たれ、灰色に濡れた体はついに動くことを諦める。
救急車が来て、騒然とする路上。
困惑するカケルの両親。
泣き叫ぶ玄と玄の父親。
一転して混沌と化す現実に、カケルは呆然と立ち尽くしていた。




