第三十八章 根本的に彼の確固たる強さ⑥
三崎カケル。
彼の父親が事故を起こし、麻白を死なせる結果になった。
後に、玄の父親の魔術の知識を用いることによって、麻白は綾花の心に宿る形に成される。
実質、それは生き返ったともいえなくともないが、不完全な形ともいえた。
だからこそ、玄の父親は自身の望みを通そうと、躍起になった。
綾花に麻白の心を宿らせただけではなく、麻白の記憶を施し、本来の麻白の人格を形成させる。
さらには、綾花に麻白としての自覚を持たせようとしていた。
どうして、黒峯蓮馬はそこまで麻白を蘇させようとしたのかーー。
その答えは恐らく、当の本人である玄の父親自身も分からないだろう。
ただ、それだけが玄の父親の唯一の生き甲斐だった。
だから、綾花の両親と進の両親、そしてカケルとの対話を拒み続けたのだろう。
現実に向き合う覚悟がなかったから。
故にその問いが叶うときは、きっとカケルが玄の父親と対峙した時。
輝明の母親はそのことを漠然と理解できていた。
「あなたを止められるのは……三崎カケル。だからこそ、黒峯麻白を本当の意味で救えるのは三崎カケルだけ」
輝明の母親を一瞥した玄の父親は、ゆっくりと笑みを作り上げてからーー表情を消した。
「そんなはずはない。彼は麻白を救う存在ではない。断じて違う」
玄の父親は拳を握りしめて、拒絶するように告げる。
「私はただ、麻白に戻ってきてほしいんだ……」
玄の父親は悔悛の表情を浮かべながら、輝明の母親に訴える。
それは不変の願い。
麻白を失ってから、玄の父親が抱き続けた願望だった。
だが、それはもはや、空虚な叫びでしかなかった。
「黒峯蓮馬。貴様は黒峯麻白のことになると、決して意見を曲げないな。闇雲に力を行使しようとしているのなら、必ず後悔することになる」
文哉は呆れたように玄の父親を見る。
玄の父親が使える魔術の知識ーーアカシックレコード。
それは文哉達が使っている魔術とは根本的に異なる。
文哉達が使っている魔術は、自身の魔力、または魔術の使い手達が産み出した魔術道具を使うことによって事象を変革するものだ。
だが、魔術の知識は世界の記憶の概念の一部を書き換えて、事象そのものを上書きしたりすることができる。
だが……。
「最も、極大魔術をもとにした大がかりな魔術が行使されているこの状況では、貴様の魔術の知識は使い物にならないわけだが」
「ーーっ」
文哉の鋭い指摘に、玄の父親は思わず、息を呑む。
その玄の父親の反応が文哉の言動を裏付けていた。




