第三十六章 根本的に彼の確固たる強さ④
「……極大魔術をもとにした大がかりな魔術は、由良文月達以外、この場にいる者達全員の魔術を封じるはずだ。恐らく陽向も、そして父さんも魔術の知識が使えなくなっていると思う」
「だけど、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を想定した極大魔術の力は思う存分、使える。つまり、今がチャンスってことだよな」
一方、玄と大輝は輝明達と連携して、玄の父親達に対抗していた。
玄達は『エキシビションマッチ戦』を観戦しつつ、文月達と戦ったことで、極大魔術をもとにした大がかりな魔術の効果を情報としてなら認識している。
しかし、それはあくまでも情報だ。
感情を伴わない情報の羅列は、何の実感も救いにもならない。
ならば、二人がやるべきことは一つだ。
「大輝、俺達はこの魔術の影響を受けない。オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を想定した極大魔術の力を駆使して、父さん達を止めよう」
「ああ。麻白が麻白ではなくなる魔術なんて、絶対に使わせないからな!」
玄と大輝はもう一度、玄の父親達へと意識を向けた。
これはこのまま、平行線をたどるための戦いではない。
綾花達とともに、麻白を救う覚悟を決めるための戦いだ。
だからこそ、玄の父親の胸を打つのは昔日の思い出。
ここはそこへと通じる道だと痛いほどに思い出す。
「玄、大輝くん。それでも、私は麻白に戻ってきてほしいんだ……」
想いばかりが先に立ち、何をすれば良いかが思いつかない。
それほどまでに、玄の父親の玄と麻白への想いは大きかった。
「今はきっと、魔術の知識も使えないはずだ。麻白を救いたいという気持ちが強すぎた黒峯蓮馬さんだったからこそ、あの魔術の危険性に気づけなかったのかもしれないな」
状況は思っていたよりも複雑で混線しているのだと元樹は頭を抱えた。
先程からの緊張感が別の意味を持つ。
そしてーー。
「綾を完全に麻白にする魔術。それを無理やり行えば、綾や上岡の心だけではなく、麻白の心そのものが麻白ではなくなる危険性がある……」
元樹が反射的に視線を向けた先には、玄の父親を見て心を痛める輝明の母親の姿があった。
「黒峯蓮馬がこれから行うことを止められるのはきっと、三崎カケルだけ……。そんな予感がします」
その輝明の母親の反応が、先程の元樹の言動を裏付けていた。
「黒峯蓮馬、話を聞いて。瀬生綾花さんを完全に……あなたの娘にする魔術ーーあの魔術は危険な代物です。無理やり、それを行えば、あなたの娘の心に異変が生じるかもしれません」
それは警告でもあり、同じ魔術に関わる家系の人間でもある輝明の母親なりの助言でもあった。




