第三十五章 根本的に彼の確固たる強さ③
「でも、舞波なら、本当に魔術の封印を打ち破ってしまうかもな」
「まあ、確かに舞波なら、不可能も可能にしてしまいそうだな」
「ああ」
拓也の考慮に、元樹は肯定するように頷いた。
「舞波昂くん、想像以上に未知数の力の持ち主のようだな」
状況は思っていたよりも複雑で混線しているのだと文哉は頭を抱えた。
どれが真実で、どれが虚実なのか。
昂の行動理念に解を示してくれる人がこの場に一人でも居てくれれば、と文哉はそう願わずにはいられなかった。
だが、もちろんそんな人物が存在するはずもなく、昂の行動理念の謎解きは平行線を辿った。
「さて、いつまでも舞波昂くんの行動に目を向けている場合ではないな」
文哉は敢えて自身の思考を振り切る。
そして、極大魔術をもとにした大がかりな魔術の力を見極めるために言を紡ぎ、魔術を展開した。
それは『魔術』というよりも一種の『芸術』だった。
「行くぞ、綾花」
「ああ」
文哉の魔術が放たれる前に、拓也と綾花は疾走する。
文哉の華麗な魔術は、魔術の援護を失った拓也達を翻弄した。
だが、拓也は文哉の魔術によって吹き飛ばされても強い意思の眸で何度でも立ち上がる。
「極大魔術をもとにした大がかりな魔術で、不利な状況になっても怯まないとは……。井上拓也くん、興味深い存在だ」
文哉は拓也の意思の強さに感嘆の吐息を零す。
昂達のように魔術を行使するわけではない。
元樹のように魔術道具を持っているわけではない。
生身の状態で文哉を翻弄してくる存在。
拓也の姿を目の当たりにした文哉は昔日を呼び起こす。
「……私は、黒峯蓮馬以上の魔術の使い手になりたかった」
黒峯家の家系の一人で在りたくなくて、自分という個人を識ってもらいたくて。
しかし、天性の才に秀でるものは弛まぬ努力だけだった。
文哉が強くなったのは玄の父親と比肩する力を求めたため、或いは凌駕しうる執着を玄の父親に抱いているために他ならない。
それなのに拓也は平凡な身でありながら、大切な存在を守るために強くなろうとしている。
文哉が実際に求め続けていたのは、もしかしたら拓也のような力なのかもしれない。
理不尽な運命に立ち向かっていった文哉だからこそ、拓也が見せる姿は容赦なく胸に沁みる強さだった。
「いずれにせよ、賽は投げられた。だが、舞波昂くんとは別の意味合いで惹かれる存在。井上拓也くん、君の強さこそが、私の求めていたものかもしれないな」
極大魔術をもとにした大がかりな魔術の効果をものともせず、立ち向かう拓也の姿。
そんな拓也を見て、文哉は強い感慨を覚えていた。




