第二十九章 根本的にさよならの心⑤
『綾花を、完全に麻白にすることができる魔術書』
だが、それは本当に実現することはできるのか。
その事実が、玄の父親の頑なな心を揺さぶった。
その時、改めて、緊迫した静謐を壊すような鋭い声が響き渡る。
「あなた達の相手は、私達と言ったはず」
花菜の声と斬撃が襲いかかってきた。
「ーーっ」
玄の父親は魔術の知識の防壁でその一撃を受け止めるものの、予想以上の衝撃によろめく。
「後のことは、カケル達に任せる!」
その花菜の声が合図だった。
「分かった!」
そう口にした花菜の背後から現れたのは、刀を振り上げたカケルだった。
完全に虚を突いた連携攻撃を前にして、玄の父親は動きを止めてしまう。
油断したーー。
そう思った時には、思わぬところから声が飛んできた。
「今更、後悔しても遅いのだ!!」
「……っ」
いつの間にか昂が、宙から刀を振り落とそうとしていた。
玄の父親は反射的に魔術の防壁で防ごうとして、刀がその防壁を通りすぎるのを目の当たりにする。
透視化の固有スキルで、魔術の防壁が無効化されたのだ。
たまらず距離を取ると、玄の父親が後退した分だけ、きっちり踏み込んだ下段斬り上げを見舞わされる。
「我の猛攻はこれだけではない。黒峯蓮馬、黒峯陽向、今こそ、我の魔術を食らうべきだ!」
「うわっ!」
陽向の動揺に応えるように、昂は裂帛の気合いを込めて魔術を放った。
その間隙を突いて、さらに強力な魔術を次々と撃ち込んでいく。
魔力を開放した昂は更なる真価を遂げていた。
「陽向くん、大丈夫か?」
「……うん。でも、今の昂くん、かなり手強いね」
「何か手を打つ必要がありそうだな」
陽向にそう応えながらも、玄の父親は次の手を決めかねていた。
オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を想定した極大魔術の力を巧みに使いこなしてくるカケル達。
そして、魔術と併用して、それを使いこなしてくる昂と輝明達。
どちらも侮ることはできないと感じていたからだ。
そして、玄の父親達に協力していた阿南家の者は既に捕らえられている。
再び、極大魔術を行使することはできなかった。
思考を加速させようと思った時には、既に『クライン・ラビリンス』のリーダーである輝明も連携技を発動させていた。
『竜牙無双斬!!』
「……っ」
「うわっ!」
最短で繰り出された輝明の必殺の連携技は、玄の父親だけではなく、近くにいた陽向を大きく吹き飛ばした。
「あかり、今!」
魔術の知識の防壁で受け止められたことへの動揺を残らず吹き飛ばして、花菜は叫ぶ。
魔術の知識の防壁で受け止めた衝撃。
それゆえに、そこに埋めようもない隙ができる。




