第二十八章 根本的にさよならの心④
「なるほど……。あの魔術は、黒峯麻白が黒峯麻白ではなくなる可能性を秘めているのか……」
文哉は心を落ち着かせると、訝しそうにそう発言した元樹の真偽を確かめる。
「黒峯蓮馬、貴様の目的はなんだ? あの魔術を使えば、黒峯麻白を生き返らせるどころか、消滅させることになるわけだが」
「ーーっ」
文哉の鋭い指摘に、玄の父親は思わず、息を呑んだ。
玄の父親が使える魔術の知識ーーアカシックレコード。
それは文哉達が使っている魔術とは根本的に異なる。
文哉達が使っている魔術は、自身の魔力、または魔術の使い手達が産み出した魔術道具を使うことによって事象を変革するものだ。
だが、魔術の知識は世界の記憶の概念の一部を書き換えて、事象そのものを上書きしたりすることができる。
「魔術の知識はそれすらも抗える力があるのか? それともーー」
確信を込めて静かに告げられた文哉の問いは、驚愕する玄の父親へと向けられていた。
「闇雲に力を行使しようとしているのか?」
「……っ」
想定外な発言を耳で拾ったように、玄の父親の背中を冷たい焦燥が伝う。
その玄の父親の反応が文哉の言動を裏付けていた。
「四人分生きている瀬生綾花か。彼女の心、実に興味深い」
「えへへ……、本当ですね~」
魔術の深淵を覗くような文哉の言葉に、文月が上機嫌にはにかんだ。
「叔父さん」
「陽向くん、大丈夫だ」
陽向にそう応えながらも、玄の父親は次の手を決めかねていた。
『綾花を、完全に麻白にすることができる魔術書』
だが、それは本当に実現することはできるのか。
今まで信じてきたことが覆されようとしている現実を前にして、躊躇いを感じていたからだ。
だが、その声は静かに場を支配した。
「見るのはそちらだけか?」
「えっ……?」
輝明が発した瞬間的な言葉に、陽向は弾かれたように顔を上げる。
『竜牙無双斬!!』
最短で繰り出された輝明の必殺の連携技。
そしてーー。
「ゲームと魔術の概念なんて関係ない。全てを覆すだけだ!」
「魔術とゲームの技の併用。……へえー、やっぱりすげえじゃねぇか」
輝明と焔は会話を交わすことで、次なる連携を察し合う。
「オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の武器や技が使えるようになる魔術が、これほどまでに厄介とは」
「未知の魔術が使える輝明くんが、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の武器や技を使えるのは手強いね」
二人の立ち回りに、玄の父親と陽向は次第に追い詰められていく。
そこにいるのは、ただのプレイヤーではない。
どんな状況からでも決して負けない最強の剣豪。
綾花達が羨望の眼差しで見た『チェイン・リンケージ』のモーションランキングシステム内で二位のプレイヤー。
そして、魔術の分家、阿南家の当主の息子だった。




