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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
憑依の儀式編
40/446

第四十章 根本的にゲームのパズルは見つからなくて

ゲーム対談情報ラジオ『プレラジ』ーー。

毎回、違う有名ゲームプレイヤーが、パーソナリティーを務めているゲーム情報ラジオ番組である。

ゲーム音楽をBGMに、雑談やリスナーからの質問に対する回答、さらに最新ゲーム情報などをお届けしており、また、パーソナリティーを努める本人を含めて、三人までならゲスト出演することができた。

そのラジオ番組で、綾花は『宮迫琴音』に扮してパーソナリティーを務めることになった。

だが、綾花はラジオ番組出演当日、自分の知らない事実を目の当たりにして驚いていた。

「ペンギンさん、可愛い!」

綾花は思わず、そう叫んでしまった。

目の前でせっせとペンギンのようなフードを被る綾花は、淡い青色のジャンパーとデニムのスカートを着ていた。

ラジオ番組のパーソナリティーを務めるゲームプレイヤーは、その際、本人の希望次第でパーソナリティーを務めている間のみ、ゲームのキャラと同じ格好をすることができた。また、ゲーム対談情報ラジオ『プレラジ』のパーソナリティーを務めた証として、ゲーム雑誌に写真が掲載されることも決まっている。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』で、綾花がいつも操作しているキャラと同じ格好をしている綾花の様は文句なく可愛らしかった。

拓也はついついその姿に見入りながらも、今日はゲーム対談情報ラジオ『プレラジ』の出演日だったよな、と今更ながらに遠い目をする。

ゲーム対談情報ラジオ『プレラジ』の出演日だと言うのに、肝心のパーソナリティーを務める綾花はツーサイドアップを揺らしながら、ラジオ番組の更衣室の姿見の前でのんびりと嬉しそうに小首を傾げている。

また、元樹に関しては、森林公園のデートの際では昂に奪われてしまった、綾花が作ってきたペンギン型のクッキーを試食しているという相も変わらずの緊張感のかけらのない光景が広がっていた。

拓也が人差し指で頬を撫でながら、言い出しづらそうに告げた。

「な、なあ、綾花。そろそろ、スタジオに向かわないか?」

「…‥…‥う、うん」

あわてふためいたように拓也の元に歩み寄った綾花の頭を、拓也は穏やかな表情で優しく撫でてやった。

そんな仲睦ましげな二人の様子を見て、元樹は少し名残惜しそうにーーそして羨ましそうな表情をして言う。

「はあ~。いよいよ、綾も、今からラジオ番組のパーソナリティーを務めるんだな…‥…‥」

腕を頭の後ろに組んで更衣室の壁にもたれかかっていた元樹の瞳が、拓也の隣で嬉しそうにはにかんでいる綾花へと向けられた。

「なあ、綾。ラジオ番組のパーソナリティーを務めている間、何か困ったことがあったら、いつでも俺に言えよな」

「…‥…‥えっ?」

思わぬ言葉を聞いた綾花は、元樹の顔を見つめたまま、瞬きをした。

「ちょ、ちょっと待て!なんで、そうなるんだ?」

綾花以上に動揺したのは拓也だ。

何気ない口調で言う元樹の言葉に、拓也は頭を抱えたくなった。

「まあ、いいじゃんか!綾と拓也はラジオ番組は初めてかもしれないが、俺は一度、兄貴と出演したことがあるしな!」

「ーーっ」

決死の言葉を元樹にあっさりと言いくるめられて、拓也は悔しそうに唇を噛みしめた。

こうして、ペンギンのフードを気にしながら、綾花達はスタジオへと向かったのだった。






更衣室で待ち構えていたスタッフに連れられてスタジオへと足を踏み入れた瞬間、綾花の目に入ったのは見慣れない設備の数々だった。

専門用語が飛び交うスタジオの中も、宇宙船のコックピットの中のようなコンソールももちろん初体験だった。

綾花達は、隣のレコーディングブースへと案内された。

「うわっ、すごいな!」

綾花はテレビ画面で見たことがある風防フード付きのレコーディングマイクやいっぱいツマミのついた機械に繋がれたヘッドホンを珍しそうにきょろきょろと見つめた。

綾花達をここまで案内したスタッフは語りかけるように、綾花に言った。

「聴いてみてくれるかい?」

スタッフが合図をすると、エンジニアがコンソールを操作した。するとスピーカーからアップテンポな耳障りのいい曲が鳴り始めた。

初めて聴く曲だった。なのに、何だかずっと前から知っているような不思議な感じのする曲だった。

これはきっと、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の続編ーー最新作のために作られた曲だ、と綾花はふと気づいた。だからきっと、この曲にどこか既視感を感じるのだろう。

曲が流れ終わった後、スタッフは綾花に訊いた。

「どうかな?」

「うん?いいと思います」

そんな綾花のーー琴音のシンプルな答えも予想済みだったらしく、スタッフは意味ありげに続けた。

「じゃあ、この曲をBGMに、今回、パーソナリティーを務めてもらうから」

「この曲をBGMに?」

「へえー、最新曲でやるんだな?」

スタッフの言葉に、綾花と元樹が相次いで訊いた。

だけど、スタッフはそれに答える代わりに自信に満ちた声で宣言した。

「今日はよろしく頼むね」

にこやかにそう言って手を振ると、スタッフはそそくさとレコーディングブースから出て行ってしまった。

その姿を見送った拓也は、不思議そうに綾花に訊いた。

「あやーー宮迫も、初めて聞く曲なのか?」

「ああ」

綾花が頷くと、元樹は感嘆したようにさらりと言葉を口にする。

「すごいよな~。兄貴の時は、普通に『チェイン・リンケージ』のオープニングジングルだったからな」

「そうなんだな」

感慨深げに、拓也は遠目に見えるコントロール・ルームを見つめながらそうつぶやいた。

ディレクターとスタッフの指示の下、ゲーム対談情報ラジオ『プレラジ』の収録は順調に進んでいった。

「初めまして、今回、パーソナリティーを務めさせて頂く、宮迫琴音です」

「宮迫の友人の井上拓也です」

「同じく、宮迫の友人の布施元樹です」

「「「よろしくお願いします」」」

先程のゲームBGMを背景に、綾花達はそれぞれの言葉で挨拶を述べる。そして、パーソナリティーを務める綾花の司会にそって、ラジオ番組は進行していった。

途中、リスナーからのお便りにて、やたら昂からの綾花ーーつまり、琴音へのラブレターめいたお便りが多かったというトラブルがあったのだが、それ以外は滞りなく収録は進み、いよいよ、最新ゲーム情報などをお届けしたら、収録は終了というところまできた。

その際、スタッフから手渡されたメモに最新ゲーム情報とは違う内容が書かれてあるのを見て、こっそりとため息をつくと、元樹は吹っ切れたように綾花と拓也に話しかけてきた。


「なあ、宮迫、拓也。バトルしないか?」


「なっーー」

その言葉に、拓也は思わず絶句する。

それは拓也にとって、全く予想だにしていなかった言葉だった。

今の今まで、ゲーム対談情報ラジオ『プレラジ』の収録をしており、残すは最新ゲーム情報などをお届けしたら、収録は終了というところまでいっていたはずだ。

それが一体、どうしてそういう話になったのか?

全く理解できなかった拓也は、率直に元樹に聞いた。

「はあ?元樹、どういうことだ?」

だが、元樹はそんな拓也の言葉にまるで頓着せずに、スタッフがあらかじめ用意していたミニモニターにて最新作のゲームを起動させる。

『チェイン・リンケージ3』。

その眼前のタイトル表記が消えると同時に、元樹はメニュー画面を呼び出してバトル形式の画面を表示させる。

元樹は拓也の方へ視線だけ向けて、世間話でもするような口調で言った。

「オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ3』。このゲームの魅力を伝えるには、ただ説明するよりもバトルした方がうまく伝わるんじゃないかって思うんだよな」

「何だ、急に?」

「どうだ?」

驚いて聞き返したのは拓也の方なのに、元樹は再度、聞き返すように言ってのける。

意図がつかめず目を細める拓也とはよそに、綾花は元樹に指示を出してきたスタッフに視線を向けると、拍子抜けするほどあっさりとこう答えてみせた。

「俺は構わない」

「俺はーー」

その意味深な問いかけに、拓也は顎に手を当てて真剣な表情で思案し始めた。

恐らく、今回のラジオ番組はいつものように最新ゲーム情報などをお届けするのではなく、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会の準優勝のはずだった綾花ーーつまり宮迫と、優勝した布施先輩の弟である元樹のデモレーションバトルをおこなって、さらにラジオ番組自体を盛り上げようとしているのだろう。

きっと、自分がこのバトルに参加しても、ラジオ番組自体には何の影響もないのかもしれない。

だがーー。

ふと脳裏に、涙目の瞳でペンギンのぬいぐるみを抱えた幼き日の綾花の姿がよぎった。

そして、上岡の家でおこなった、対談の練習の時のいつもどおりの花咲くようなーーだけど、少し泣き出してしまいそうな笑みを浮かべる綾花の姿を思い出す。

気持ちを切り替えるように何度か息を吐き、まっすぐに元樹を見つめた拓也は思ったとおりの言葉を口にした。

「いや、俺だって構わない」

意外とも取れる強きな発言に呆気にとられたような元樹を見て、拓也もまた決まり悪そうに視線を落とす。

「俺は二人と違って、全くのゲーム初心者で最初は何をどうしたらいいのか分からなかった。だけど、今では俺も少しずつできるようになってきて、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』、このゲームそのものを楽しんできている」

綾花はその言葉を聞いた瞬間、はっとした表情で目を見開き、戸惑うように拓也を見遣った。

それは、二人で対談の練習をおこなっていた際に、拓也が口にしていた言葉だったからだ。

驚きの表情を浮かべる綾花を見て、拓也は照れくさそうにぽつりぽつりと続ける。

「結局、あまりうまくなれなかったけれど、だからといって、自分から勝負を逃げたりはしない」

「…‥…‥拓也、それは俺に対する当てつけか?」

元樹が不服そうに投げやりな言葉を返すと、ようやく拓也はほっとしたように微かに笑ってみせた。

「井上らしいな。まあ、それでも、俺が絶対、勝つけどな」

屈託のない笑顔でやる気を全身にみなぎらせた綾花を見て、拓也は思わず、胸に滲みるように安堵の表情を浮かべる。

すると、腕を頭の後ろに組んで椅子にもたれかかっていた元樹が朗らかにこう言ってきた。

「俺だって、負けないからな」

不意にかけられた言葉が、意味深な響きを満ちる。

絶対にーー。

言外の言葉まで読み取った拓也を尻目に、元樹はゲーム画面に視線を戻すといつものように『デュエルマッチ』を選択する。

拓也はそれを見遣ると軽くため息を吐き、右手を伸ばした。コントローラーを手に取って正面を見据える。

「レギュレーションは一本先取。いいな?」

「ああ」

「…‥…‥なあ、宮迫」

元樹の言葉に拓也が頷いたと同時に、ふと思い出したように元樹は綾花の方を振り返った。

ふわりと翻る銀色の髪。

いつもの綾花によく似た顔が、不思議そうな表情で小首を傾げる。


「俺が勝ったら、その…‥…‥好きな子と二人きりでデートできるように協力してほしいんだけど、ダメか?」


「…‥…‥当たり前だ」

元樹が再び、手を合わせて至って真剣に懇願してくるのを見遣ると、拓也は眉をひそめてきっぱりとそう断言した。

いつもの二人のやり取りに、綾花は思わず、日だまりのような笑顔で笑ったのだった。






こうして対戦終了後、ゲーム対談情報ラジオ『プレラジ』の収録は無事に終わり、三者面談という名目で1年C組の担任と昂の母親に捕まっていた昂から教えられた方法によって、『宮迫琴音の生徒手帳』は効力を失った。そして、『宮迫琴音』がこの高校に在籍していたということも、宮迫琴音に関するあらゆる記憶や認識も、全て白紙へと戻されたのだった。

だが、しかし、

「おい、舞波!授業が始まった途端、魔術で隣のクラスに行くな!」

「我はどうしても、綾花ちゃんと同じクラスになりたいのだ!」

昂はいつまでも、無駄なあがきを続けていたという。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 綾花ちゃんが愛されすぎていて、そしてそこにゲーム好きの進が入り込んでしまったことで、この人たちの間ではゲームが1つのステータスとなってしまったと。振り返ってみると感慨深いですね。いよいよの…
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