第二十章 根本的に真実の行方④
俺は黒峯麻白さんのためにできることをしたいーー。
たとえ僅かな助力だとしても、カケルは麻白のために足掻きたい。
立ち止まって、後ろを向いて、『これまで』を積み重ねて。
でも、それは全部『これから』のためだから。停滞することとは絶対に違うからーー。
「黒峯麻白さん、ここは俺達に任せてほしい!」
それでも永遠に枯れることのない想いを込めて。
カケルは自身の矜持を貫いた。
「カケルくん、ありがとう」
花が綻ぶような綾花の笑み。
それはカケルの頭を撫でるように優しい声音だった。
「少なくとも、これで陽向くん達は『時間を停止する』極大魔術を使うことはできないな」
拓也は置かれた状況を踏まえて思案する。
「あとは、黒峯文哉さん達が使おうとしている『極大魔術をもとにした大がかりな魔術』を阻止だ。あの魔術を封じる手が分からないと打つ手がないな」
そんな拓也の不安を拭うように、輝明は情念の想いを燃やす。
「どんな状況からでも諦めないのがおまえ達の強さなんだろう」
「だけど、どうすれば……」
拓也が生じた疑問の答えは遅滞する事なく、輝明によって示された。
「全てを覆せばいい。彼女を守りたいんだろう。なら、それを示せばいい」
「ーーっ」
輝明の気迫に、拓也は一瞬、気後れする。
大切な人と同じ時間を過ごせるということは、どれだけ幸せなことなんだろう。
拓也がまだ幼い頃から、淋しい時や楽しい時、いつも傍にいてくれた女の子。
ずっと一緒にいられると思っていたのに、今は魔術によって、綾花と引き離されようとしている。
なら、拓也のやることは一つだけだ。
「分かった。先生、サポートをお願いします!」
「たあっ!」
聞き覚えのあるその声は、拓也達以外は全く予想だにしない言葉だった。
大会会場の天井から颯爽と降りてきた武道家風の女性ーー岩木汐は、綾花と拓也の腕を掴むと踵を返して駆け出した。
ーーそう。
汐の先導によって、綾花と拓也はその場から離れただけだった。
だが、それだけで、綾花達は玄の父親達の包囲網から逃れることに成功していた。
「なっ?」
予想外の助っ人を目の当たりにして、玄の父親は驚愕する。
「汐、任せろ!」
「ダーリン、こちらは任せて!」
取り囲もうとしてきた警備員達を、汐は駆けつけてきた夫の1年C組の担任とともに振り払っていく。
「岩木銀河、岩木汐。あなた方の素性は既に調べ上げています。瀬生綾花さん。彼女を渡してもらいます!」
綾花と拓也を追いかけて、警備員達とともにいた美里が1年C組の担任達のもとへと駆け込んでくる。
美里達の追手に対して、1年C組の担任、岩木銀河がとった行動は早かった。




