第十八章 根本的に真実の行方②
「母さん……」
この場に輝明の母親が突如、現れたこと。
輝明は心痛と不可解の入り雑じった顔で、輝明の母親を見た。
「母さんは……あの魔術の知識の使い手と知り合いなのか……」
玄の父親と輝明の母親が顔見知りである。
その事実が、輝明の心に重くのしかかる。
「……」
沈黙が場を支配した。
余韻というにはあまりに長く、それほどまでにこの場にいる者達はこれから先の判断を決めかねていた。
「……お嬢様、阿南家の者の一人が、黒峯家の者達に協力しております。少なくとも今、この場で彼の処罰を決める必要があるかと」
それが破られたのは焔の祖父が決断を促した瞬間だった。
「なっ、あの人は確か、輝明さんの屋敷にいた……」
拓也は焔の祖父を見て、思わず呆気に取られる。
焔の祖父の視線を追った先。
そこにいたのは、陽向達の時間を停止させる極大魔術の協力者。
以前、阿南家の屋敷で焔に対して不満を漏らしていた者だった。
「処罰。まさか、当主がここに来たのは、俺が黒峯家の者に協力したことを裁きに……」
「むっ、決まっているではないか。この者達は、我の極大魔術の素晴らしさを間近で見に来たのだ!」
玄の父親達に協力している阿南家の者は苦悶の声を漏らす。
だが、自身に言われたと勘違いした昂は傲岸不遜な態度で率直な意見を述べた。
「間近で……本当にそうなのか?」
拓也が抱いた疑問に応えるように、元樹は推測を確信に変えた。
「いや、舞波のことだから、出任せを言っている可能性が高いな」
確信を込めて静かに告げられた元樹の問いは、阿南家の者達へと向けられる。
「ほ、本当に何なんだ……こいつは? 何で話に割って入ってくるんだ?」
先程、苦悶の表情を浮かべていた者は、想像の斜め上をいく昂の答えに驚愕していた。
「むっ、我は偉大なる未来の支配者だ」
腕を組んだ昂は誇らしげにそう応える。
「偉大なる未来の支配者? やはり、危険な存在なのでは?」
「舞波昂は末恐ろしい存在なのでは?」
阿南家の者達の間で様々な流言飛語が飛び交う。
渦巻く陰謀と魔術が取り巻く異常性。
昂が華々しく名乗っている間にも、それはこの世界の裏側で蠢いている。
話が頓挫したように感じ、焔の祖父は改めて仕切り直した。
「改めて申し上げます。瀬生綾花、井上拓也、布施元樹。そして舞波昂。魔術の本家の者達が興味を注いでいるこの者達に今、この場で貸しを作っておくことは悪くない選択肢だと儂は思います」
焔の祖父は断腸の思いで座する。
「黒峯家の者達に協力しているあの者がいなくなれば、『時間を停止する』極大魔術は維持できなくなるかと」
事変を知っているのと直接、目の当たりにするのとでは訳が違う。
「お嬢様、どうかご決断を」
「……分かりました。参りましょう」
焔の祖父の直言に応えるように、輝明の母親は前を見据えた。




