第十四章 根本的に星の向こう側には⑥
「後のことは、カケル達に任せる!」
その花菜の声が合図だった。
「分かった!」
そう口にした花菜の背後から現れたのは、刀を振り上げたカケルだった。
完全に虚を突いた連携攻撃を前にして、玄の父親は動きを止めてしまう。
油断したーー。
そう思った時には、既に『クライン・ラビリンス』のリーダーである輝明もまた、刀を現出させて連携技を発動させていた。
『竜牙無双斬!!』
「……っ」
「うわっ!」
最短で繰り出された輝明の必殺の連携技は、玄の父親だけではなく、近くにいた陽向を大きく吹き飛ばした。
「カケル、あかり、今!」
魔術の知識の防壁で受け止められたことへの動揺を残らず吹き飛ばして、花菜は叫ぶ。
魔術の知識の防壁で受け止めた衝撃。
それゆえに、そこに埋めようもない隙ができる。
「ああ!」
花菜の声に応えるように、カケルはすかさず、自身の固有スキルを発動させる。
カケルの固有スキル、『スキル・ブースト』。
それは自身、または仲間キャラの攻撃力を上げる固有スキルだ。
「絶対に、俺達が勝ってみせる!」
攻撃力を上げる相手はあかりーー進。
進はカケルの固有スキルを用いた最速の必殺の連携技を放つ。
「なっ!?」
『ーーアースブレイカー!!』
言葉とともに、車椅子を動かしたあかりが間隙を穿つ。
瞬間の隙を突いたあかりの必殺の連携技。
固有スキルによって強化されたその必殺の連携技は、玄の父親の不意を突き、ステージ外へと吹き飛ばす。
「三崎カケルくん……高野花菜さん……」
矢継ぎ早の展開。
それも出来れば対峙したくなかった相手を目の当たりにして、上半身を起こした玄の父親は明らかに顔をしかめた。
「何故、何度も私の前に立ちはだかってくるんだ……」
理解に最も程遠く。玄の父親の眸はまっすぐにカケル達を捉えてから拒絶を紡いだ。
「簡単なこと……」
「黒峯麻白さんの力になりたかったからです!」
カケルは花菜のその気概に促されて、自分のするべきことを理解する。
カケルは目を伏せて、目の前の相手に神経を集中する。
もう一度、戦いへと意識を向ける。
だが、これは逃げる為の戦いではない。
自分の過去に向き合う為の戦いだ。
そしてーー。
「私達の相手はあなただけじゃない。私達に立ちふさがる者達は全員、私達が倒す」
淡々と言葉を紡ぐ戦姫の名を冠した少女ーー花菜は、髪をかきあげて決定的な事実を口にした。
「私は黒峯麻白のためにーー輝明のために動く。だから、この場にいる相手の中で、もっとも極大魔術の維持を阻害する可能性があるあなた達は私達の相手」
「その相手の一人が、私ということか?」
玄の父親の言葉に、花菜は一瞬、息を呑んだように見えた。
無表情に走った、わずかな揺らぎ。
そして、無言の時間をたゆたわせた後で、花菜はゆっくりと視線を落とした。
「…‥…‥そう、思ってもらっていい」
花菜がそうつぶやくと同時に、花菜のキャラは大鎌を振りかざしてきた。
大鎌による嵐のごとき斬撃に、魔術の知識の防壁を張り巡らせていた玄の父親は辟易する。




