第十三章 根本的に星の向こう側には⑤
「だが、いつまでも『極大魔術をもとにした大がかりな魔術』を出し惜しみしている場合ではないようだ」
文哉は敢えて自身の思考を振り切る。
陽向が使った『時間を停止させる極大魔術』。
そして、昂が使った『オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を想定した極大魔術』。
文哉は二大極大魔術に対抗するために言を紡ぎ、魔術を展開した。
それは『魔術』というよりも一種の『芸術』だった。
「『極大魔術をもとにした大がかりな魔術』、今この場で使わせてもらおう」
文哉の華麗な魔術。
魔術の本家の一つ、黒峯家には、芸術を媒介とする魔術が伝わっている。
その使い手の名を黒峯文哉。
己が青春を犠牲にして、その知と才を受けた者である。
『極大魔術をもとにした大がかりな魔術』は、文哉が使う芸術を媒介とする魔術が基になっていた。
「『極大魔術をもとにした大がかりな魔術』か。どんなものなのかは分からない」
元樹は警戒するように視線を周囲へと走らせる。
「だが、今、『極大魔術をもとにした大がかりな魔術』を使われると、『オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を想定した極大魔術』の効果に対して対抗されてしまうかもしれない。なら、何とかして妨害するしかないな」
元樹は携帯を手に決意を固めた。
「拓也、綾のことを頼むな」
「ああ、分かったーー」
拓也はすぐに状況を理解し、手筈どおりに動き始めようとする。
しかし、元樹の漲る決意に答えたのは余裕の態度を示す玄の父親だった。
「なら、それが可能か見せてもらおうか、布施元樹くん」
「黒峯蓮馬さん……」
玄の父親の付け加えられた言葉にーー込められた感情に、元樹は戦慄するように拳を強く握りしめる。
一触即発な状況に陥ろうとした矢先ーーそこに一筋の光がもたらされた。
「随分、余裕だな。それは俺達に対しても、宣戦布告しているとも取れるよな」
「……っ」
焔の言葉が玄の父親の頑なな心を揺さぶった。
その時、改めて、緊迫した静謐を壊すような鋭い声が響き渡る。
「あなた達の相手は私達と言ったはず」
唐突な花菜の声と斬撃は、背後から襲いかかってきた。
「ーーっ」
玄の父親は魔術の知識の防壁でその一撃を受け止めるものの、予想以上の衝撃によろめく。
「高野花菜さん。何故、君は突然、背後から現れたんだ……?」
「私の固有スキルは『リミテッド』。一時的に素早さを上昇させるスキル。一度しか使えないけれど、いざという時に役に立つ」
玄の父親の台詞を引き継いた花菜は、髪をかきあげて決定的な事実を口にする。




