第七章 根本的に誰も知らない極大魔術⑦
陽向と焔の魔術の攻防が激しくなる最中。
「オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を想定した極大魔術。思っていたよりも厄介だな……」
隠しようのない動揺を抑えるように、玄の父親は短く息を吐いた。
これで戦う術を持たなかったはずの拓也達は、玄の父親達にとって大いなる脅威となった。
「だが、既に『時間を停止する』極大魔術を行使している。この状況なら、麻白が私達のもとから逃げ出すことはかなわないはずだ」
「綾花、俺から離れるな」
「たっくん……」
玄の父親が示した着眼点に、拓也は綾花を身を呈して守ることを誓う。
そんな二人を一瞥した玄の父親は、ゆっくりと笑みを作り上げてからーー表情を消した。
「それは不可能」
淡々と言葉を紡ぐ戦姫の名を冠した少女ーー花菜は、髪をかきあげて決定的な事実を口にした。
「あなたの思ったとおりなんてさせない」
「ああ。黒峯麻白さんの力になってみせる!」
「ーーっ」
花菜の物言いたげな表情に、カケルもまた、まっすぐに強気な笑みを返す。
立ちはだかってきた思わぬ伏兵に、玄の父親は苦悶の表情を滲ませる。
「まさか、彼らもオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の武器や技が使えるようになっているのか……?」
玄の父親にとっては到底、理解は出来ない彼らの感情は何処から沸いたものであったのだろうか。
感情を曝け出し、己が想いを口にするならば、玄の父親はただ純粋に彼らの存在に否定を示すだけだった。
「当然。あなた達の相手は私達だから」
「ーーっ」
決意の宣言と同時に、花菜は巨大な鎌を玄の父親に振りかざしてきた。
玄の父親は魔術の知識の防壁でその一撃を受け止めるものの、予想以上の衝撃によろめく。
振り返ると、いつの間にか花菜の手には大鎌が現出していた。
「カケル、あかり、今!」
玄の父親は魔術の知識の防壁で受け止められたことへの動揺を残らず吹き飛ばして、花菜は叫ぶ。
魔術の知識の防壁で受け止めた衝撃。
それゆえに、そこに埋めようもない隙ができる。
「ああ!」
花菜の声に応えるように、カケルはすかさず、自身の固有スキルを発動させる。
カケルの固有スキル、『スキル・ブースト』。
それは自身、または仲間キャラの攻撃力を上げる固有スキルだ。
「絶対に、俺達が勝ってみせる!」
攻撃力を上げる相手はあかりーー進。
進はカケルの固有スキルを用いた最速の必殺の連携技を放つ。
「なっ!?」
『ーーアースブレイカー!!』
言葉とともに、車椅子を動かしたあかりが間隙を穿つ。
瞬間の隙を突いたあかりの必殺の連携技。
固有スキルによって強化されたその必殺の連携技は、玄の父親の不意を突き、ステージ外へと吹き飛ばす。
カケルの前に現れた武器ーー刀。
そして、進の前に現れた武器ーー剣の存在はただでさえ八方塞がりな状況に泥沼と化した。
「三崎カケルくん……」
矢継ぎ早の展開。
それも出来れば対峙したくなかった相手を目の当たりにして、上半身を起こした玄の父親は明らかに顔をしかめた。
「何故、私の前に立ちはだかるんだ……」
理解に最も程遠く。玄の父親の眸はまっすぐにカケルを捉えてから拒絶を紡いだ。
「簡単なこと……」
「黒峯麻白さんの力になりたかったからです!」
カケルは花菜のその気概に促されて、自分のするべきことを理解する。
カケルは目を伏せて、目の前の相手に神経を集中する。
もう一度、戦いへと意識を向ける。
だが、これは逃げる為の戦いではない。
自分の過去に向き合う為の戦いだ。
そしてーー。
「私達の相手はあなただけじゃない。私達に立ちふさがる者達は全員、私達が倒す」
淡々と言葉を紡ぐ戦姫の名を冠した少女ーー花菜は、髪をかきあげて決定的な事実を口にした。
「私は黒峯麻白のためにーー輝明のために動く。だから、この場にいる相手の中で、もっとも厄介そうなあなた達は私達の相手」
「その相手の一人が、私ということか?」
玄の父親の言葉に、花菜は一瞬、息を呑んだように見えた。
無表情に走った、わずかな揺らぎ。
そして、無言の時間をたゆたわせた後で、花菜はゆっくりと視線を落とした。
「…‥…‥そう、思ってもらっていい」
花菜がそうつぶやくと同時に、花菜のキャラは大鎌を振りかざしてきた。
大鎌による嵐のごとき斬撃に、魔術の知識の防壁を張り巡らせていた玄の父親は辟易する。
「叔父さん」
「陽向くん、大丈夫だ」
陽向にそう応えながらも、玄の父親は次の手を決めかねていた。
昂と輝明達の魔術という特異性だけではなく、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を想定した極大魔術の力を巧みに使いこなしてくるカケル達も侮ることはできないと感じていたからだ。
「オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を想定した極大魔術は、昂くんのアイデアではなさそうだな」
「むっ、我のアイデアだと。我の素晴らしいアイデアだったら、さらに素晴らしいものになっていたはずだろう」
昂は腕を組むと傲慢不遜な態度で自信満々に答えた。
「我のための究極の極大魔術になっていたはずだからな」
それは玄の父親が発した問いの答え。
もし実際に昂が新たな極大魔術を考えていたら、非常に大変な事案が発生していたはずだろう。




