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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
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第九十五章 根本的に夜明けにさよならを⑦

「うむ。魔術書の消滅が極大魔術を行使するための条件の一つであろう。ならば、その思い込みを逆に利用してやるのだ」


元樹から問われて、昂は意を決したように息を吐くと、必死としか言えない眼差しを陽向に向ける。

その言葉が、その表情が、昂の焦燥を明らかに表現していた。


「利用……?」

「魔術道具の強化というものを、逆に利用してやるべきだ」


訝しげな元樹の問いかけにも、昂は憤懣やる方ないといった様子で同じ内容を訴え続ける。

そこで、先程の昂の言動に隠された示唆に、元樹は思い当たる。


「もしかして、魔術書の代わりに、強化された魔術道具を代替え品にするつもりなのか?」

「うむ、その通りなのだ」


奇妙に停滞した心の中で、元樹は昂の意図を把握した。


「魔術道具ならば、何度でも造り直すことができるからな。強化できるというのなら、とことん強化をしてやるまでだ」

「……なるほどな。つまり、強化した魔術道具をもとに、極大魔術を使うんだな」


拳を突き出し、昂が至極真面目な表情でそう言ってのけると、元樹は思わず呆気に取られてしまう。

魔術書の代わりに、強化された魔術道具を代替え品にする。

それに乗じて、極大魔術を行使するという戦略。

あまりにも突拍子のない、昂の型破りな作戦。

だが、この状況に置いて、有効な手段の一つのようにも思えた。

それを成し得るために、元樹は前持って抱いていた疑問を口にする。


「極大魔術を元にした魔術道具の強化はできるのか?」


元樹の隣には桜色の髪の少女ーー輝明が使役する自動人形(オートマタ)が佇んでいる。

彼女は答える代わりに、輝明へと視線を向けた。


「極大魔術を元にした魔術道具の強化か。時間を停止させる以外に、どんな極大魔術が存在するんだ」


彼女と視線をかち合わせた輝明は表情を明確に波立たせる。

少なくとも、輝明は以前、陽向達が用いた『時間を停止させる』極大魔術しか目の当たりにしたことがない。

他の極大魔術への知識を持ち合わせていなかった。

それに答えたのはーー


「うーん。僕が知る限り、これから使う『時間を停止させる』極大魔術しか知らないかな」


浮遊していた陽向だった。


「なっ! 陽向くん達も、この場で極大魔術を用いるつもりなのか?」

「どうやら、黒峯蓮馬さんが魔術の知識を用いて、準備を整えてきた大がかりな魔術は極大魔術のことだったみたいだな」


思わぬ発言に、拓也と元樹は動揺の色が隠せない。


「だが、今回、輝明さん達の助力はない。そんな状況で、陽向くんはどうして極大魔術を使えるんだ?」

「ふわわっ、たっくん、元樹くん……」


元樹が思考を加速させようとしたその瞬間、綾花達の視界が激しく揺れ動く。

会場内の喧騒が遠ざかり、耳障りなノイズが頭へと流れた。

世界から取り残されたような感覚を認識した直後、世界は元に戻った。


「何が起きたんだ?」


混乱しそうになる頭を叱咤しながら周囲を見渡すと、拓也は不可思議な異変に気付く。

大会のアナウンスをしていた実況が、まるで時間が止まってしまったように動かない。

他の者達も、一定の動きをした状態で固まっている。


「たっくん、元樹くん。周囲の人達が誰も動かないよ」


拓也達の近くに駆け寄っていた綾花が、拓也の思いを代弁するように言う。

あの時と同じように、周囲の時間が停止したという、現実離れしたことが目の前で起きていた。


「みんな、どうしたんだ。俺達以外、まるで時間が止まったみたいに動かないなんて……!」


鋭く声を飛ばした拓也をよそに、元樹は冷静に目を細めて言った。


「どうやら、陽向くんが仕掛けてきたみたいだな」


元樹は警戒するように、視線を周囲へと走らせる。


「でも、今回、陽向くん達には、輝明さん達の助力はない。どうやって時間を停止させる極大魔術を用いたんだ?」

「叔父さんが言っていたよね。魔術の知識を用いて、大がかりな魔術の準備を整えてきたって。それに阿南家の人は、輝明くん達だけじゃない」


陽向は今回、極大魔術を使えた理由を打ち明ける。

そして、観客席のある一点へと視線を投げかけた。


「なっ、あの人は確か……」


拓也は思わず、呆気に取られる。

陽向の視線を追った先。

そこにいたのは以前、阿南家の屋敷で焔に対して不満を漏らしていた者だった。 


「……へえー、阿南家は黒峯蓮馬とは敵対していたはずだろう」


奇妙に停滞した会場内で、焔は念を押す。


「おまえが黒峯家に助力していたなんて面白いじゃねぇか。どこまでも予想外で楽しませてくれるぜ」


焔はそれだけで納得したように表情を笑みで刻む。

焔が語った理想、しかし阿南家の者達の中にはそれは必要ないと断じている者もいる。

だからこそ、『彼』は阿南家の決断に逆らってまで、玄の父親達に協力したのだろう。

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