表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
361/446

第八十ニ章 根本的にこの想いがこの姿とともに消えてなくなるまで②

「おいおい。容赦ねえな」

「……相変わらず騒がしい方ですね。舞波昂くんは」


焔とともに、昂と陽向が生み出した魔術の嵐に吹き飛ばされつつも夕薙は急がない。

端然と着こなす衣服を乱すこともなく、誘発された魔術に足取りを迷わせる事もなく、冷静沈着に距離を保っている。


阿南焔くんが告げたとおり、どちらも容赦ない攻撃ですね。

ただ、互いが互いの攻撃の対処に集中しているあまり、周りが見えていないようです。


昂と陽向が発揮した底知れぬ才能と実力に、夕薙は歓喜とともに胸を打ち震わせる。


「僕ももう少し派手に動きますか」


焔の予備動作にあわせるように浮かび上がらせた焔の塊に魔力を充填し、至近に照準を合わせた。


「なら、やってみせろよ!」


宙に浮かんだ魔力の焔は、果たして幾つか。

焔はその隙間を縫うように接近する。


「では、遠慮なく」


その瞬間、夕薙が放った華麗な魔術と焔が放った暴虐の魔術がぶつかり合う。

会場全体を揺らす衝撃が、彼らの魔術の激しさを物語っていた。

その爆風が掻き消される前にーー


「黒峯蓮馬さんの透明化を何とかするためにも、まずは陽向くんの動きを止めないとな!」


元樹は既に動いていた。

その言葉が合図だったように、元樹は魔術道具を使って、一瞬で陽向のもとまで移動する。

そして、陽向の体勢を崩すために足払いをした。


「なっ……!」


静と動。

本命とフェイント。

元樹は移動に魔術道具を用いて、陽向の意表を突くと、緩急をつけながら時間差攻撃に徹する。

攻撃手段が魔術でないため、跳ね返すことが出来ない陽向は次第に翻弄されてしまう。


「元樹くんはすごいね」


間一髪で難を逃れた陽向は、巧妙な元樹の攻撃方法に感嘆の吐息を漏らす。


「こういう時、極大魔術を使えたら、もう少し自由に動けたかな? でも、輝明くんも焔くんも、僕達に力を貸してくれなさそうからね」


陽向は牢乎たる志を持って告げた。


「僕と昂くんがもし、この場で極大魔術を使えるようになったら、極大魔術同士の撃ち合いも実現するかもしれないね」


陽向が口にした仮定ーーそれは名状しがたい惨状の呼び水になりかねない。


「……舞波がそんな危険な魔術を行使したら、大変な事になりそうだな」

「ああ、大惨事になりそうだな」


陽向が口にした思わぬ直言に、拓也と元樹は戦々恐々とした。


「井上拓也くん、布施元樹くん。やはり、彼らには舞波昂くんが極大魔術を使えないかもしれないという懸念はないようだ。魔術の家系ではない舞波昂くんが魔術を使える理由。やはり、その答えはこの世界の(ことわり)を解く鍵になるようだ」


驚愕に満ちた拓也と元樹の反応を見て、文哉は自分の考えが正しかったことを確信する。

魔術の家系が紡いだ、延々と続く危うい安寧を取るべきか。

もしくは綱渡りの如き、刹那の決意を取るべきか。

決められる強さは文哉にも他の魔術の家系の者達にもなく、胡乱な恐怖の中で今日という日は流れ続ける。

だが、昂がこの場で極大魔術を使えるのか、否か、その事実を知れば、魔術の家系の者達の行く末もいずれ判明するだろう。


「私達の介入無しに、舞波昂くんの透明化が解除されたのは想定外だったが、結果的に阿南家の者が持つ力を垣間見ることができた」


文哉は昂の暴走を止めるために、文月達の協力を得て昂を透明化した。

そこまではある程度、文哉の思惑どおりに事は進んでいる。

それなのに何故か、昂の巨大化の魔術によって魔術の存在が世間に知れ渡ろうとしている危機にまで陥ってしまっていた。


「そして、上岡くんの存在も興味深い」


文哉は昂の声を聞いた進の存在に興味を注ぐ。


昂を透明化して物理干渉できなくすれば、昂の暴走を止めることができるかもしれないーー。


文哉がそう思案した結果、昂は先程まで他者に認識されない魔術を受けたことで透明化し、物理干渉ができない状況に陥ってしまっていた。

言うなれば、亡霊状態。

しかし、元樹達の阿吽の呼吸によって透明化の効果は解除されてしまった。

だが、それでも収穫はあった。


昂の破天荒な行動。

阿南家の者が持つ力。

そして、透明化して物理干渉を受け付けないはずの昂の声が進に届いたこと。

今はまだ、昂という未知の存在が真実を隠している。

けれど、時が経てば、真相はいずれ暴れることもまた道理。


「黒峯蓮馬がこれからどう動いていくのか。もはや、透明化を維持しても無駄なことは理解しているはずだが……」


文哉が呟くその声音は、誰にも聞こえぬように魔術を伴う歌声となった。

それは彼にとって、一つの決意の表れであった。


魔術書を消滅させるような代物である『時を止める極大魔術』を行使した。


この事象が本来、起こり得なかった可能性を宿す泡沫であろうとも、それは事実として存在している。

娘を救える可能性があるのならば救ってみせるという玄の父親の意思は実を結び、想いの形として現出していた。

それが己の覚悟であると示すが如く、陽向の魔力と玄の父親の強い願い、そして焔の協力を得たことで成し遂げられた。

魔術と魔術の知識を用いて成し遂げられた確固たる証明だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ