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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
355/446

第七十六章 根本的に君との終わりは見えなくてもいい④

「どうやら、輝明くん達は何かを始めるつもりみたいですね」


その様子を傍観していた夕薙が真剣な声音でつぶやく。


「文月さんはこれから大将戦。彼らの対処は僕と文哉さんがすることになりそうですね」

「そうなりますね~」


確かめるような問いをぶつけた夕薙に対して、頬に手を当てた文月が上機嫌にはにかんだ。

その時ーー


「おいおい、よそ見していていいのかよ!」

「……わぷ!?」


奇襲を仕掛けてきた第三者の声に、ようやく状況に気づいた文月は間の抜けた声を上げる。

その間隙を突くように、焔が暴虐の魔術を駆使してきたからだ。


「えへへ……、油断大敵ですね~。とはいえ、今は『エキシビションマッチ戦』の最中ですよ」


文月は不意を突かれたような顔をした後、穏やかな笑みを零した。

魔術による乱打戦。

対戦ステージにも、周囲にも何らかの影響が生じているはずなのにーー。


「誰も、俺がステージに乱入してきたことに気づいていねえだろう」


置かれた状況を踏まえた焔は明確な事実を述べる。

これだけの騒ぎになっていても、焔達以外はこの異常事態に気づいていない。

それはあかり以外の『ラ・ピュセル』のチームメンバー、輝明以外の『クライン・ラビリンス』のチームメンバーにも同様のことが言えた。


「そう言えばそうですね~。なら、次は焔くんに倍返しできるように頑張りますね~」


文月は賛意を示すように、満たされる胸の喜びを伝える。

聞き捨てならない言葉を聞いた焔は食ってかかった。


「はあっ、倍返し? 詭弁じゃねえのか。それが事実だというなら証明してみせろよ!」


真偽を確かめる言葉とは裏腹に、焔は既にそれが可能な相手だということを認知していた。


倍返しなんて詭弁に決まっている。


そう一笑に付せないだけの経験を、焔は現在進行形でしている。

これまでの戦いで魔術の本家の一つ、由良家と神無月家の実力を身を持って味わった。

だが、焔はそれでも魔術の本家の者達である文月達に牙を剥く。

焔が何より好むのは、主君である輝明が魔術の本家の者達である文月達を退けることなのだから。


「ご期待に添えるように頑張りますね~」


髪を(なび)かせた文月はにこやかに宣戦布告した。


「なら、やってみせろよ!」


焔はその隙間を縫うように接近する。

だが、焔が放とうとした暴虐の魔術は文月の魔術によって即座に消滅した。


「焔くん、まだまだですね~」

「へいへい、肝に免じておくぜ。……一応な」


文月が見せる真摯な瞳。

その中に隠された毅然と矜持を、焔は軽い笑いで受け流す。

余裕を見せる魔術の本家の一人である文月と夕薙の類い希な実力。

癪に障る文月の穏やかな物言いに、焔は不満を抱く。

先程からの緊張感が別の意味を持つ。

そこにーー


『さあ、あかりちゃん、刮目してほしいのだ! これが改良に改良を重ねて、我がずっと使いたかった偉大なる魔術ーー』


緊迫した状況の焔と文月達をよそに、ステージへと立った昂はビシッと天井を指差して言い放った。


『『対象の相手を大きくする』、つまり『対象の相手を小さくする』魔術の逆バージョンだ! その名のとおり、対象の相手を際限なく、大きくすることができるのだ!』

『際限なく? まさか、そのような危険な魔術をこの場で使うつもりなのか?』


余裕綽々で腕を組んでほくそ笑んでいる昂を見て、事態を把握した玄の父親は警告するようにつぶやいた。


『我に不可能はない』


昂の自信に満ちた態度に、玄の父親は違和感を感じ、警戒を強める。


『昂くん、どういうつもりだ』

『貴様に話す必要はない』


疑惑の視線を送る玄の父親に、昂は腰に手を当てると得意げに言う。


『何度聞かれようと、大会会場を破壊するほど大きくなれば、偉大なる我の存在を誇示することができるはずだ、ということは口を裂けても言わないのだ!』

『……その様子では後先のことを考えていないようだな』


これ見よがしに昂が憮然とした態度で言うのを聞いて、玄の父親は苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。


昂は恐らく、本気で際限なく巨大化するつもりだろう。

もし物理干渉ができるようになれば、その際に生じる被害損害は計り知れないものになるはずだ。


魔術の家系ではないのに魔術を行使する存在、舞波昂。

破天荒な彼は世間から秘匿されていた魔術を使って、様々な問題を生じさせていた。

昂が魔術を使う際に生じる危機は目に見えて増加してきている。

そして今も、こうして新たな問題が浮上していた。


『透明化して物理干渉ができない身とはいえ、昂くんがこのまま、あの魔術を行使すれば、大会会場に何らかの影響を与えるかもしれないな』


玄の父親は現状を噛みしめるように確固たる事実を示した。


『ふむふむ、巨大化の魔術。これならば、我の存在を猛烈にアピールできる上、透明化すらも解除できるはずだ! まさに一石二鳥ではないか!』

「おい、昂!」


あまりにも突拍子のない、昂の型破りな作戦。

それを聞いたあかりは――進は慌てて車椅子を動かして昂の声がする方向に向かった。

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