第六十八章 根本的に彼は遊戯に飢えている④
『そして黒峯陽向、許せぬ! 許せぬぞ!!』
昂は両拳を突き上げながら訴える。
元樹と戦闘を繰り広げている陽向に向けてーー。
『黒峯陽向、我の真価を見せる時がついに訪れたのだ! だから、今すぐ我に気づいて、我の挑戦を受けるべきだ!』
雪辱戦に挑む昂の意気込みは、陽向に届くこともないまま、虚しく会場内に響き渡る。
『むっ! 我は納得いかぬ!』
いまだに元樹との戦いに興味を注いでいる陽向を見据えて、昂は両拳を振り上げて憤慨した。
『何故、誰も我の存在に気づかぬのだ! 何ゆえ、偉大なる我に誰も気づかぬ!』
昂は自身の存在を誇示する。
だが、いくら叫んでも、昂のその声は誰にも届かなかった。
そうーーただ『二人』を除いて。
『文哉は魔術の本家のーー文月さん達の力を借りてきたか。やはり、輝明くんと焔くんの力を警戒しているのかもしれないな……』
隠しようのない動揺を抑えるように、その一人である玄の父親は短く息を吐いた。
『それでもここまで大規模な魔術を使うとは余程、昂くんの力の根源を探りたいようだな』
玄の父親はそこまで告げると、意味深に昂へと視線を向ける。
まるで昂の姿が見えているような振る舞い。
その行為に反応して、昂は剣呑を込めて言い募った。
『貴様、我の姿が見えているのなら、この状況を何とかするべきだ! 我の姿を見えなくしたという事実は許し難い行為なのだ!』
憤慨に任せて、昂はひとしきり玄の父親のことを罵った。ひたすら考えつく限りの罵詈雑言を口にし続ける。
『残念だが、昂くん、君の姿を見えなくしたのは私ではない。文哉達の力だ』
昂の意見に呼応するように、玄の父親はそう断じた。
『もっとも、私も君と同じように透明化している。だからこそ、こうして君の存在を認識できている』
玄の父親は魔術の知識を用いて、昂と同じく透明化する手段を探し出した上で、その力を行使している。
『……むむっ、どちらでも構わぬ。とにかく、我の姿を見えなくした元凶は断じて許せぬ。意気込んでいられるのも今のうちなのだ』
『まさか、もうこの状況から脱する手段を見つけたのか?』
それでも余裕綽々で腕を組んでほくそ笑んでいる昂を見て、玄の父親は警戒するようにつぶやいた。
『我に不可能はない』
昂の自信に満ちた態度に、玄の父親は違和感を感じ、警戒を強める。
『昂くん、どういうことだ』
『貴様に話す必要はない』
疑惑の視線を送る玄の父親に、昂は腰に手を当てると得意げに言う。
『何度聞かれようと、偉大なる我はこの状況を何とかしてほしい、ということは口を裂けても言わないのだ!』
『……その様子ではまだ判明していないようだな』
これ見よがしに昂が憮然とした態度で言うのを聞いて、玄の父親は苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。
「とにかく、黒峯蓮馬。今こそ、我の魔術を食らうべきだ!」
昂は裂帛の気合いを込めて、玄の父親に対して魔術を放った。
昂が玄の父親と対峙していた頃ーー。
「……この近くにいるのは確かだが」
「肝心の魔王はどこにいるんだよ」
玄と大輝は昂の捜索に乗り出していた。
玄達は綾花達から話を聞いたことで、今まで魔術で生じた騒動を情報としてなら認識している。
しかし、それはあくまでも情報だ。
感情を伴わない情報の羅列は何の実感も救いにもならない。
それでも二人がやるべきことは一つだ。
「大輝、俺達は何とかして魔王の居場所を突き止めよう」
「ああ。この会場のどこかにいるだろうしな」
玄と大輝はもう一度、文哉へと意識を向けた。
だが、これは傍観するための戦いではない。
綾花達とともに戦う覚悟を決めるための戦いだ。
そして、激戦が続く『エキシビションマッチ戦』のステージではーー。
「あかりさん、すみません。後はお願いします」
「ああ」
チームメイトから手渡されたコントローラーを車椅子に乗った少女が握りしめた。
「今、昂の声が聞こえたような気が……」
玄と大輝が文哉相手に奮闘している。
その光景を観戦席から見ていた車椅子に乗った少女、あかりーーあかりに憑依している進は透明化している『昂の声』を聞いていた。
だが、肝心の昂がどこにいるのかまでは分からない。
「心配なら、ここからサポートすればいい」
その時、凛とした声が混乱の極致に陥っていた進を制する。
「僕達も一緒に手伝ってやる。だが、今は神無月夕薙を徹底的に叩き潰してこい」
「……ああ。阿南、ありがとうな」
静かな言葉に込められた有無を言わせぬ強い意思。
輝明の激励に応えるように、ツインテールを靡かせた進はこの上なく、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「声が聞こえたということは何かあるはずだ。透明化とやらを打ち破る手段がな」
輝明は観戦席から大会会場を垣間見ながら、鋭く目を細めた。
『エキシビションマッチ戦』の最中で魔術の本家の使い手が仕掛けた罠に何を成せばいいのかーー。
その答えは未だ、見出だせてはいない。
だが、輝明は答えなど不要とばかりに、その思考を心中で唾棄する。
身体を打つ魔力の流れが熱を引かせ、周囲を包む乱戦の音は彼の心を鎮めていく。
隠されていた真相を聞かされた時、輝明の心に迷いが生じた。
進と同様の不安と戸惑いもある。
それでも輝明の胸には戦意がゆっくりと沁み出してくる。
「魔術の本家の者達。おまえ達の思いどおりにはさせない。全てを覆すだけだ!」
自身が抱く確かな意思。
焔はその言葉を待っていたように愉しそうに笑みを浮かべた。




