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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
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第六十一章 根本的に明日の話をしよう⑤

「舞波はまだ、複数の分身体を編み出す魔術を使っていなかった。突如、舞波の分身体達が現れたのは、舞波の動きを阻害することが目的かもしれないな」


その揺らぎない魔術の本家の者達の意思に応えるように、元樹は状況を照らし合わせながら応える。


「阻害……?」

「今回も黒峯家の人達か、もしくは神無月夕薙さんを始めとした魔術の本家の人達が仕掛けてきたんだろうな」


拓也の躊躇いに応えるように、元樹は今までの謎を紐解いて推論を口にした。


「そんなことはどうでもいい! いつの間にか、我の影武者達が一致団結しているではないか!」

「……おい。自分で分身体を消すことは出来ないのか」


不愉快そうに顔を歪めて高らかに訴える昂に、拓也はうんざりとした顔で冷めた視線を向ける。


「ふむ……。何故か今回も我の影武者達を消すことが出来なかったのだ……」

「今回も舞波の魔術が暴走した時と同じように、舞波の魔術でも自身の分身体を消すことが出来なかったのか。どんな魔術を使って、舞波に自身の分身体を消すことが出来ないようにしているんだろうな」


昂の悲哀を込めた訴え。

元樹は敢えて、昂の意見を重く受け止める。

昂の分身体達が突如、現れた現象といい、気がかりが残る案件だ。

拓也と元樹は顔を見合せると、これまでの情報を整理していく。


「何度見ても不思議な魔術だな」


元樹が反射的に視線を向けた先には、観戦席で困惑の色を示している輝明の姿があった。

そしてその近くの観客席で、焔が昂の騒動を不敵な笑みを浮かべて見つめている。


「分身体か。破天荒な奴が使う支離滅裂な魔術を一つ一つ見極めてみるのも楽しいかもしれねぇな!」


輝明が示した懸念に、焔は断固たる口調で言い切る。

確信に満ちた言葉は真実。焔にとって、自分が関心を持つ存在と、非現実の現象に純粋な興味を抱くのは当然のことだった。


「舞波昂という魔術の使い手と黒峯家が管理していた魔術書によって生じた現象か。分身体を複数、増やすという魔術。その魔術に手を加えることができるのは、やっぱり魔術書を管理していた黒峯家の者かもしれないな」

「……へえー、誰の仕業か分からないが面白いじゃねぇか」


昂の型破りな魔術を利用した者への解釈。

核心を突く輝明の理念に、焔はそれだけで納得したように表情に笑みを刻む。


主従関係を結んでいる輝明と焔。


それぞれ、個性も指標も考え方も違っていたが、その剽悍さは昂の及ぶところではないように拓也には思えた。

しかし、肝心の昂の分身体達はそれらのことを全く気にせずに話をひたすら捲し立てまくった。


「「「我らは舞波昂の妨害に屈せずに、舞波昂を捕獲して『黒峯文哉様』のもとにお連れするのだ!!」」」

「おのれ~! 我の影武者達が勝手に現れただけではなく、暴挙に出ようとしているではないか!」


昂は憤懣やる方ないといった様子で、昂の分身体達との抗戦を続ける。


「ううっ……舞波くん、大丈夫かな……」


その攻防を見つめていた綾花は悲痛な面持ちで呟く。


「……黒峯文哉さんか。黒峯家の人達も、強引な手段を使ってくるな」

「はあ……。舞波の分身体達の魔術の効果を解かないといけないな」


傍若無人な昂の分身体達の有り様に、拓也と元樹は辟易した。


「今回も魔術道具なら効果があるかもしれないな。今すぐ、舞波の分身体を全て消してくれないか!」


元樹は咄嗟に魔術道具をかざすと、決意を込めた声でそう告げた。

魔術道具の放った光が消えると、昂の集団は跡形もなく、消え去っていった。


「助かったのだ……」

「本当に、先行きが不安だな」


踏んだり蹴ったりの状況。

拓也は安堵の表情を浮かべた昂を見据えると、忌々しさを隠さずにつぶやいた。


「おい!」

「あの男の子達、突然消えたぞ……!?」

「どうなっているの?」


さすがに近くで観戦していた人達は突然、昂の分身体達が消え失せたことに驚愕している。

騒ぎになりかねた時ーー


「安心してください。これは手品です」

「まるで本当に消えたみたい。驚きの手品だよね」


そこに1年C組の担任と汐が駆け寄り、咄嗟の機転で助け船を出してくれた。

苦し紛れの嘘だったのだが、幸い観戦していた人達はなるほど、と感心する。


「ここは先生達に任せて、別の場所に移動しよう」

「ああ」

「うん」

「むっ……、我の魔術は手品というものではないのだが……」


元樹が示した判断に、拓也と綾花は頷き、昂は不満をもらすと、玄達とともに即座にその場から離れた。


「彼らの存在は興味深い」


その光景を遠くから眺めていた文哉はその答えを求めるように意識を高める。


「舞波昂くんは何故、魔術を使える者として存在している。その答えを私達、魔術の家系の者達は知る必要がある。だからこそ、舞波昂くんに繋がる芽は、全てその根本を見極めなくてはならない」


文哉は言を紡ぎ、魔術を展開する。

それは『魔術』というよりも一種の『芸術』だった。


「さて、彼らは私の仕掛けた罠に気づくことができるのか、楽しみだ」


文哉が呟くその声音は誰にも聞こえぬように魔術を伴う歌声となった。

それは彼にとって、一つの決意の表れであった。

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