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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
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第五十八章 根本的に明日の話をしよう②

そうーー挑んだのだが相変わらず、シャーペンを持つ手が止まったまま、一向に先へと進まない。


時間だけが一刻と迫る。

それでも、必死に反省文を書き上げた昂は堂々とのたまった。


「母上、反省文を書き終えたのだ!」

「なら、その反省文を確認しようかね」


意気込む昂の心中などお構いなしに、昂の母親は所感を述べる。

今まで昂が書き上げた反省文の内容を見越して、昂の母親はそう結論付けたのだ。


「うおおおおおおっ! ……お、恐ろしい言葉が飛び出してきたのだーー!!」


予想外の言動に、昂は拒絶するように両手を前に突き出しながらひたすら絶叫する。

昂の母親が目を走らせると案の定、反省文には昂の願望そのものが記載されていた。


「……昂、この反省文は書き直すんだよ!」

「母上、何度も何度もあんまりではないか~!」


にべもなく断言する昂の母親の姿に、昂は疲れ果てたように躊躇いを加速させる。

雪辱戦に挑む昂の意気込みは叶うこともないまま、綾花達が帰宅する頃には地に伏して灰塵へと帰していた。


こんな調子じゃ、先が思いやられるなーー。


拓也は気持ちを切り替えるように、顔を曇らせて言った。


「元樹、今回の件に関しては玄達に説明するのか?」

「ああ、メールで玄達に伝えようと思う。ただ、魔術の本家の人達がプロゲーマーだったという事実。こればかりは、玄達がどこまで知っているのか、実際に聞いてみないと分からないな」


拓也の素朴な疑問に、元樹は思案を重ねる。


「俺達は『エキシビションマッチ戦』は観戦することしかできない。プロゲーマーである魔術の本家の人達との対戦中の出来事は、上岡と輝明さんに任せるしかないな」

「……そうか」


真剣な眼差しでそう告げた元樹から目を逸らすと、拓也は複雑な表情を浮かべた。


「心配するなよ、拓也。舞波の件で、帰宅する時間は大幅に変更してしまったけどさ。俺達は今、こうして、真相究明のために、『エキシビションマッチ戦』に挑戦しようとしているんだからな」

「そうだな」


元樹の決然とした言葉に、拓也は真剣な眼差しで応える。


綾花がまた、綾花としていつでも笑えるように、と拓也達は心から願った。

それは玄と大輝、そして輝明と焔の協力によって叶えられると信じている。


綾花達が黒峯家の屋敷で新たに知った魔術の本家の存在。

そして、時を止めるという魔術書を消滅させるほどの極大魔術は魔術の本家の者達ですら容易に扱える代物ではないという事実。


本来なら『エキシビションマッチ戦』の舞台で知ることになったはずのプロゲーマーの存在。

綾花達が黒峯家の屋敷の会合に向かう途中で、文月と夕薙に巡り合ったのは運命の巡り合わせだったのかーー。


陽向達がオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会、チーム戦で時を止めたことを発端に、綾花達の周辺で魔術に関わる情勢が大きく動いている。

時間を止める魔術という神業を起こしてきた玄の父親達。

あの時、焔の力で時間制限のなかった陽向。

そして魔術の本家の者の誰かが昂の分身体達を現出させて操り、本物の昂を欺いた魔術。

その謎は昂の部屋に入った後も、元樹達に禍根を残していた。

綾花達がいまだに周知することができない謎の数々は今も彼女達の心を燻り続けていた。


「たっくん……」


拓也が滑らせる視線の果てには綾花が不安を滲ませている。


「元樹。確か『時間を停止させる魔術』は、世界の概念を壊す危険性を帯びている代物だったはずだよな。魔術の本家の人達が容易に扱うことができない魔術。そんな強大な魔術は他にも存在しているのか」

「存在しているかもしれないな。ただ、魔術の知識が使える黒峯蓮馬さんだったからこそ、極大魔術を使うという算段を講じることができたのかもしれないな」


状況は思っていたよりも複雑で混線しているのだと拓也と元樹は頭を抱えた。

そして、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会、チーム戦で起きた出来事を呼び起こす。

あの時、あの瞬間。

時間が止まった状況の中で、拓也達は身体を張って綾花を玄の父親達の手から護った。


「黒峯蓮馬さんの魔術の知識は、舞波や陽向くんの魔術と同じように万能ではない」

「魔術の知識か……」


元樹が示した着眼点に、拓也は複雑な表情を見せる。


「だからこそ、『時間を停止する魔術』は使えなかった。そもそも、時間を停止させるなんて、舞波が使う魔術ーーいや、世界の概念を越えている事象だからな」


茨のそれにも見えた玄の父親の道程は未だ、その終わりを見せてはいなかった。


「だから、阿南焔さんの力を借りたんだな」

「極大魔術を行使することは、あらゆる世界線の概念を壊す危険性を孕んでいる。だからこそ、極大魔術は阿南家の人達の持つ特異な力を借りなくては使うことはできないからな」


拓也の躊躇いに応えるように、元樹は今までの謎を紐解いて推論を口にした。


「特異な力……。輝明くんが私に勇気を与えてくれた力……」


拓也の隣にいた綾花が微かに肩を震わせる。

黒峯家の屋敷で輝明が綾花にくれた力は、今も心の中に宿っているように感じられた。

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