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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
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第五十五章 根本的に不遇の出会い⑦

「……お、おのれ~、井上拓也! そして、布施元樹! 貴様ら、我に自白させるのが目的だったのだな!」

「おまえが勝手に話しただけだろう!」

「ああ」


昂が罵るように声を張り上げると、拓也と元樹は不愉快そうにそう告げる。


「……おのれ」


昂が次の行動を移せずに歯噛みする中、元樹は核心に迫る疑問を口にした。


「もしかしたら、黒峯蓮馬さんが舞波に魔術書を渡したのは独断だったのかもしれないな」

「なっ!」

「えっ……?」

「むっ!」


元樹の正鵠を射た発言に、拓也と綾花、そして義憤に駆られていた昂は目を見張る。


「なるほどな。つまり、黒峯蓮馬は我の最初のファンで、黒峯家の者は次第に我を高く評価していったというわけだな」


昂は腑に落ちたようにご満悦な様子で頷いた。


「あのな……」

「そんなはずないだろう」


昂の解釈に、拓也と元樹は呆気に取られたように辟易する。

もっとも、この時の昂の弁は何も間違っていなかった。

玄の父親だけではなく、文哉もまた昂の魔力に目を付け、利用価値を見出だしていたのだから。

だが、昂が魔術の本家の者達にとっても理解不能な存在だったことが更なる火種へと繋がる。

綾花をーー麻白に帰ってきてもらいたいと切に願う玄の父親達と陽向。

昂の魔力の本質を見極めるために、それぞれの思惑とともに動き出した魔術の関係者達。

そして、魔術の本家の者達がいるプロゲーマー達。

この大きな流れは、何も綾花達の周りだけではない。

これは魔術の本家と分家、そして魔術に関わる者達に深く関わってくる事柄だろう。

時間を止めるという極大魔術、昂の周りで頻繁に起きている不可解な現象、魔術の関係者達との遭遇が(もたら)した不安感と焦燥感は拭えない。


「ううっ……」


先の見えない魔術による争乱と駆け引き。

綾花は湧き上がる不安に押さえるように自らの腕を掴んだ。

そして、ありったけの勇気を絞り出すように確固たる想いを口にする。


「私もみんなの力になりたいの」


綾花の縋るような想いに、進と麻白は確かな意思を持って応えた。


「これからも、私がーー俺がーーあたしがみんなと共に居るために。あたし達のーー私達のできることを探してみたいの!」


綾花は口振りを順々に変えながら、意を決したように声高に叫ぶ。


「……綾花」


先を見据えた綾花の意見に、拓也が想いを形にするように言った。


「みんなで一緒に『エキシビションマッチ戦』を楽しもうな」

「……うん。たっくん、ありがとう」


綾花は不意を突かれたような顔をした後、すぐに柔らかな笑みを零した。


「心配するなよ、綾。『エキシビションマッチ戦』の時でも、先生達が舞波のサポートに回るからな」

「ひいっ! 何を恐ろしいことを言っているのだ!」


元樹の即座の切り返しに反応して、昂は恐怖のあまり、総毛立った。ふるふると恐ろしげに首を振る。

しかし、自身の置かれた立ち位置を思い出して、昂はその恐怖にかき消されてしまいそうな意識を懸命に繋ぎ留める。


「とにかく、我は黒峯蓮馬と黒峯陽向を始めとした黒峯家の者達、そして魔術の本家の者達に一矢報いる必要がある」


昂は奮戦するように勇み立つ。


「我は我のやり方で、この不可解な現象の数々を解決へと導いてみせるのだ!」


泡沫の安寧の果て、昂は今回のことを目論んできた魔術の関係者達に歯牙を向けた。

それは彼にとっての揺るぎない決意の表れであった。


八方塞がりの状況であっても、諦めない不屈の精神を示す。


それが己の覚悟であると示すが如く、昂は魔術の関係者達に対して憤慨した。






悪意は形となり、彼を襲う。

文哉が生じた異変と違和感は、周囲の黒峯家の者達にまで広がりつつあった。


先程、連絡を取った監視対象である舞波昂。


昂がもたらしたとされる一連の騒動はどこまでも一貫性がない。

散発する波乱の数々は調べても切りがなく、黒峯家の者達は各々、情報の整理に追われている。


「魔術の分家、阿南家は舞波昂くんに関わっていくことを決めたようだな。そして今回、舞波昂くんは私が渡した携帯を壊してしまったか……」


黒峯家の者達から伝えられたその最後の情報は決して歓迎出来る類のものではなかった。

携帯を壊してしまったということは、昂との連絡手段の一つを失ったことに等しい。


「舞波昂くん。『エキシビションマッチ戦』の舞台、君に宿る魔力の根源についてはそこで解明させてもらおうか」


文哉は忌々しそうに眉をひそめる。

そんな中、彼は強い悪意に似た不穏な気配を感じ取る。

同時に複数の影が闇の向こうで揺らめく。


「他の魔術の本家の者達も舞波昂くんを起点に動き始めたようだ。調査を急ぐ必要があるな」


文哉は昂の魔力の根源を探る正しさを魔術の本家の者達に問うたことがある。

それを「愚かだ」と一蹴されたこともある。

だからこそ、最早覆せぬ『自身の意思』を回顧する意味はもう無いと。文哉は既に理解していたのだ。


文哉は速やかに席を立つと部屋から立ち去る。

室内に揺蕩う闇は最早、何者の意志も湛えてはいなかった。

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