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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
333/446

第五十四章 根本的に不遇の出会い⑥

「ここで寝転がっていても何の問題はないのだ。この愛らしいペンギンの姿でならば、魔術の本家の者達や警察の目を欺くことなど容易いであろう。なおかつ、阿南家の者達も我の存在に疑懼(ぎく)の念を抱くことはなかったはずだ」

「混迷を極めていたけれどな」

「ああ」


昂は大の字のまま、ペンギンの着ぐるみを身に纏ったまま、空に拳を振り上げてやる気を(みなぎ)らせる。

拓也と元樹が口にした結論など、昂はどこ吹く風だ。


「そういえば、先程、気になる夢を見たのだ」

「気になる夢?」


突飛な昂の物言いに、拓也は不思議そうに首を傾げる。


「以前も見た夢なのだ。我が初めて父上から魔術書をもらった夢だ」

「黒峯蓮馬さんが舞波に魔術書を渡した真意か。どうして、黒峯蓮馬さんは舞波に魔術の才能があるって分かったんだろうな」


元樹は敢えて、昂の意見を重く受け止めた。

玄の父親の思惑といい、気がかりが残る案件の一つだった。


疲弊して倒れていた昂は先程まで微睡みの中にいた。

それは今の自分へと繋がる始まりの夢。

以前、見た魔術という存在を初めて知った昔日の出来事だった。


「魔術書のお土産……?」


魔術書を目の当たりにした幼い昂はぱあっと顔を輝かせていた。

海外から昂の父親が持ち帰った魔術書。

それを手にした昂は感無量の面持ちで見つめる。


「父上、この本からすごい魔力を感じるのだ……!」


毅然とした雰囲気を醸し出す昂の父親は、喜び勇んだ昂の頭を優しく撫でた。


「ああ。社長が昂なら使えるだろうと踏んで売ってくれたんだ」

「素晴らしいものなのだ!」


昂の父親の溺愛ぶりに、昂はどこまでも感銘を受けている。

昂の父親が仕事で海外に赴いた時に、お土産として購入してきてくれた魔術書。

それは、昂が魔術を使えることを知った玄の父親が売買という形で譲ってくれたものだった。

魔術の家系でもない。

魔術に携わる家系の血筋でもない。

それでも昂が魔術を行使できているのは、彼の執念が生んだ努力の賜物なのだろう。

しかし、その努力の蓄積が、魔術以外の別の方面で生かされることはなかった。

そして、何故、玄の父親が貴重な魔術書を自身に譲ったのか、その思惑を図り知ることはなかった。

それでも昂は揺るぎない持論を示す。


「つまり、黒峯蓮馬は我の偉大なる魔術の才能に最初に気づいた者だということだ。我は生誕した時から偉大なる未来の支配者なのだからな!」

「……まあ、舞波は存在自体が謎だからな」


昂の我田引水な意見に、元樹はもはや理論というより、直感でそう告げるしかなかった。

改めて、意識を切り替えた元樹は、重大な疑問点を口にする。


「舞波、海外からのお土産として魔術書をもらったんだよな? どこの国に行ったお土産だったのか覚えていないのか?」


元樹の疑問は、昂からすれば愚問だった。


「うむ、当然ではないか。我はそもそも、海外というものの意味すら知らないのだ!」

「意味すら知らない。つまり、おじさんが留守の間、どこに行っていたのか、知らないんだな」


元樹は訝しげに、拓也と顔を見合わせる。


「黒峯蓮馬さんはどうして舞波なら使えるだろうと踏んだんだろうな……」

「どういうことだろうな」


拓也の問いにもならないようなつぶやきに、元樹は怪訝そうに眉を寄せた。


昂が初めて魔術書を入手した場所は、少なくとも昂の家に限られてくるはずだ。

そして、最初に渡した魔術書は幼い昂でも使えると踏んだ魔術書だろうと目星をつける。

憑依の儀式、分魂の儀式が記された魔術書である可能性も否めないが、それでもある程度の断片的な魔術書を渡したーーその蓋然性が高かった。


拓也は昂の真意を掴むために、さらに言葉を連ねる。


「なら、おまえは最初から魔術書にすごい魔力を感じていたのか?」

「少なくとも魔術書は見た感じでは普通の古文書だよな。明らかに普通の古文書ではない違和感を感じていたのか?」


再び質問を浴びせてきた拓也と元樹に対して、何を問われるのかある程度は予測できたのか、昂は素知らぬ顔と声で応じた。


「そのとおりだ。もっともあの頃は魔術書を読めなかったので、父上にお願いして、ある程度、内容を教えてもらったがな」

「なるほどな。つまり、おまえが英語が得意なのは所持している魔術書を解読するためだったんだな」


そのもっともな昂の説明に、拓也は呆気に取られたように何とも言い難い渋い顔をする。

元樹は夕陽を背景に視線をそらすと、不満そうに肩をすくめて言う。


「黒峯蓮馬さんは、舞波が魔術書を解読できなかった場合はどうしていたんだろうな」

「うむ、確かにな」


苦虫を噛み潰したような元樹の声に、不遜な態度で昂は不適に笑った。


「ーーむっ?」


しかし、そこでようやく、昂は自ら自白し、自身の過去を語っていたことに気づく。

混乱しきっていた思考がどうにか収まり、昂は素っ頓狂な声を上げた。

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