第五十一章 根本的に不遇の出会い③
「由良文月、そしてプロゲーマー達。僕達のチームに勝ったことを後悔させてやる」
『チェイン・リンケージ』のモーションランキングシステム内で、二位のプレイヤーであり、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームのリーダーでもある輝明。
かって最強の名をほしいままにしていた輝明は、『エキシビションマッチ戦』で垣間見たプロゲーマー達のその凄まじい速度と機敏さを前にしても、特段気にも止めなかった。
しかし、その後の『エキシビションマッチ戦』の大将戦での敗退、そして、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第ニ回、第三回公式トーナメント大会のチーム戦で玄達、『ラグナロック』に二度も敗北したことで、輝明は本格的にチーム戦への移行を決めた。
『輝明くん、まだまだですね~。でもでも、かなり強いです。良かったら、私達の所属するゲーム会社でプロゲーマーになりませんか?』
屈辱的な言葉とともに告げられた勧誘の誘い。
『クライン・ラビリンス』に勝った由良文月達、プロゲーマーを全力で叩き潰すことだけを考える。
オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーは、大会などに出場できない代わりに大会の進行役や模擬戦などをおこなったり、初心者にゲームを教えたりして収入を得ている。
また、公式トーナメント大会の個人戦の優勝者、準優勝者、チーム戦の優勝チーム、準優勝チームが挑戦できる『エキシビションマッチ戦』の対戦相手としても活躍していた。
魔術の本家の者達がプロゲーマーとして、そして『エキシビションマッチ戦』の対戦相手として立ちはだかる。
まるで長き、永き封印から解き放たれたように、焔は両手を広げて天井を仰いだ。
「輝明、絶対に勝てよ。輝明は俺が唯一、認めた仕えるべき主君なんだからよ。魔術の面でもゲームの面でも、あいつらより弱かったら話にならないぜ!」
焔は心中で主君である輝明に忠誠を誓いながらも、その表情は凶悪に笑っていた。
「全てを覆すんだろう? なら、輝明、俺にーー世界にその全てを見せてみろよ。てめえはなんせ、俺が唯一、認めた主君、『アポカリウスの王』なんだからよ」
焔は不敵に笑う。
自身が掲げた理想を成すその日を夢見てーー。
主従関係を結んでいる二人が交わした誓い。
その宣誓はまもなく芽吹かせる事になるだろう。
その時、焔は何者かの視線を感じた。
視線を向ければ、表情が乏しい女性が儚げな眼差しをゆっくりと焔へ向けている。
「また、俺のお目付け役かよ……」
焔の冷たい視線が虚ろな女性を射抜いた。
女性は人間ではない。
阿南家の魔術の使い手が用いる自動人形だ。
阿南家の魔術の家系の者は生来、魔術の影響を受け付けない。
それと同時に、魔術回路を内臓する自動人形を操る使い手という一面を持ち合わせていた。
人格も意思も持たず、阿南家の魔術の使い手の定められた指示にだけ従う存在。
彼らを使役し、阿南家の魔術の家系の者達は予見どおりに事が進めることができた。
目の前に佇む女性は焔の祖父が操る自動人形だ。
頻繁に問題を起こす焔のお目付け役として、祖父は度々、彼女を焔のもとへと向かわせている。
今回もまた、同行を認めたものの、監視の意味を込めて焔のもとへと赴かせたのだろう。
「まあ、いいけどな。阿南家の奴らも、舞波昂が使う支離滅裂な魔術魔術を間近で見て思うところがあったのかもしれねぇな」
焔は抑えようとしても抑えることのできない情動を抱く。
「魔術の本家の奴らの虚を突くのは俺達、阿南家の役目だ! 魔術の面でもゲームの面でもな! 誰にも邪魔はさせねえ!」
最早、焔は寸毫として迷わなかった。
文月と夕薙。
魔術の本家としてもプロゲーマーとしても名高い二人と改めて、向き合う覚悟を決める。
「魔術の本家の者が、俺達を妨害してきたとしても関係ねえ! 俺は阿南家の存在を、魔術の本家の者ども、他の魔術の家系の者どもにーー世間に認めさせたいんだ……!」
理想を心に、けれど歩む道は実力が十分に伴っていないと進めない。
全てを成し遂げるためには、己の掌は余りにも小さ過ぎるのだと知っている。
だからこそ、焔は期待を込めた眼差しで主君である輝明を見つめた。
魔術の本家の者達。
舞波昂に関わっていけば、おのずと出会えるはずだ。
そんな大層な者達、俺達で蹴散らしてやるぜ。これは俺達なりの魔術の本家の者達に対する意地だ。
憎まれ役なら買って出てやるぜ。
……なにしろ、輝明の魔力はあの黒峯蓮馬と黒峯陽向なんかよりも上なんだからよ。
焔は以前、輝明が大会会場で見せた魔力を思い起こして歓喜する。
まるで焔の竜が長き、永き封印から解き放たれたようにーー。
焔は確固たる意思とともに両手を広げて空を仰いだ。




