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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
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第三十九章 根本的に阿南家が選ぶ道標⑦

「むっ、我は偉大なる未来の支配者だ」


腕を組んだ昂は誇らしげにそう応える。

だが、ペンギンの着ぐるみの格好の影響でいまいち迫力はない。


「偉大なる未来の支配者? やはり、あの格好には何らかの糸が隠されているのでは?」

「舞波昂は末恐ろしい存在なのでは?」


阿南家の者達の間で様々な流言飛語が飛び交う。


渦巻く陰謀と魔術が取り巻く異常性。

昂が華々しく名乗っている間にも、それはこの世界の裏側で蠢いている。


魔術に関わる家系の者ではないのに、魔術を行使する存在。

昂が阿南家に赴いた理由。


焔の魂胆を見抜き、焔の祖父は静かな怒りを抱いていた。


「焔。舞波昂をこの場に呼び寄せたのか。舞波昂については、儂らも不明な点が多すぎることを分かっておるな……!」

「はあっ? ただ、舞波昂をこの場に連れてきただけだろうが!」


しかし、焔の祖父の警告など、焔は歯牙にもかけない。


「俺は輝明が一番、強い奴になればいいんだ! そのためなら阿南家の機密情報も輝明と共有するし、騒ぎの火種となった舞波昂もこの場に呼び寄せるぜ!」

「阿南焔。あなたが輝明を強く信頼しているのは分かります。でも、舞波昂は魔術の本家の者でも解き明かせない不可解さがあります……」

「輝明なら、全てを覆せるだろう」


明らかな思考の飛躍があるのに、不自然な確信。

口元には笑みすら浮かべる焔を見て、輝明の母親は不安を交じらせる。

だが、そのことに意識を割いている余裕はなかった。


「舞波昂。新たな魔術を産み出せる存在に関わっていけば、何か目新しい発見があるかもしれない」

「……阿南家のしきたりも確固たる固執も関係ねえ」


あらゆる魔術の家系の者達の関心が集まっている昂への解釈。


核心を突く輝明の理念に、焔はそれだけで納得したように表情に笑みを刻む。


「母さん、俺達はこれからも彼らの協力をしていきたい」

「輝明、舞波昂と関わるのは危険すぎます……」


想定外な発言を耳にしたように、輝明の母親の背中を冷たい焦燥が伝う。


「僕はーーいや、阿南家は既に舞波昂と関わりを持っているはずだ」

「……っ」


韜晦(とうかい)するようなその輝明の母親の反応が、輝明の言動を裏付ける。

その言葉は過ぎ去った彼女の過去の過ちを呼び覚ますトリガーだった。

玄の父親に手を貸した事への懺悔へと引き摺り込まれる絶望譚。


玄の父親が使える『魔術の知識』。

それは、昂達が使っている魔術とは根本的に異なる。

昂達が使っている魔術は、昂達の魔力、または昂達が産み出した魔術道具を使うことによって事象を変革するものだ。

だが、魔術の知識は、世界の記憶の概念の一部を書き換えて、事象そのものを上書きしたりすることができる。

そんな玄の父親が掲げた理想という名の妄執に手を貸したことへの懺悔。


「あなたが娘をーー麻白を生き返そうとしていることは、独りよがいの片思いと一緒よ。そう伝えたのに、私はそんな彼に手を貸してしまった」


そんな彼と相容れず、袂を断った輝明の母親は自身が犯した罪に今も心を痛めている。

そこを突くように、焔は軽やかに宣言した。


「あらゆる隔たりも関係ねえ! 俺は阿南家の存在を、魔術の本家の者ども、他の魔術の家系の者どもにーー世間に認めさせたいんだ……! 少なくとも舞波昂の力をこの場で誇示すれば、否応なしに魔術の本家の者どもは阿南家の存在を注目するだろうけどな!」


それは何の前触れもなく、唐突に焔によって布告される。

焔が発した意味深な発言は、少なくとも阿南家に仕える者達を震撼させるものだった。


「魔術の本家の者達に阿南家を認めさせる……?」

「舞波昂の力をこの場で誇示するなど、危険すぎるのでは……?」


阿南家に仕える者達は、焔の話が飛躍しずきてついていけていない。

しかし、焔の祖父は焔の思惑を見据える。


「焔。相変わらず、輝明様の力の開花のために、派手に動いているようだな」


孫の焔が輝明に対して、忠誠のみならず、友誼を結んでいる。

その事実を知っている者は、阿南家の中でもごくわずかだ。


焔は素行が悪いことで知られている。

要らぬことに横やりを入れたりと横暴な態度のところがあり、また一度、決めたことは決して曲げない頑固さを持っていた。

だが、興味を注ぐ輝明に対しては必要以上に干渉し、尽くしたりと、自身の矜持を貫く信念を見せている。

それは焔の家族にとって予期せぬ出来事であり、望外の喜びでもあった。


「舞波昂の力の誇示。それが輝明のためになるんだから、それでいいんだよ!」


焔は抑えようとしても抑えることのできない情動を抱く。

魔術の家系の家主の息子とそれに仕える者の孫。

だが、輝明と焔の関係は、不平等という虚飾を取り払った友誼に基づく。

焔にとって互いの肩書きなど、何の意味も成さない。

それは何よりも美しい美学だと思えた。


輝明に仕える忠臣ーー。


この場所なら、焔はいつまでも自分らしくいられると思った。

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