表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
316/446

第三十七章 根本的に阿南家が選ぶ道標⑤

「どうやら来られたようですね……」


阿南家の家主である彼女はーー輝明の母親は綾花達が阿南家の屋敷に訪れたことを察する。

既に屋敷には、異質とも呼べる阿南家の魔術の家系の者達が集っていた。


「魔術に関わる家系の者ではないのに、魔術を行使する舞波昂。そして、彼に大きく関わっている瀬生綾花さん達。黒峯家にとって、そして魔術の本家の者達にとって、彼らはよほど興味深く理解しがたい存在なのかもしれない」


輝明の母親は焔が綾花達をここに呼ぶきっかけになった時の出来事を思い浮かべ、窓際へと歩み寄る。


「私があの時、黒峯蓮馬に手を貸さなかったら、瀬生綾花さん達を魔術の禍根に巻き込むことはなかったのかもしれない。瀬生綾花さん達がここに来ることもなかったかもしれない」


窓にそっと手を伸ばすその所作が示す意はどこにあるのだろう。

輝明の母親は玄の父親が成そうとしていることを全て知っているわけではない。

今回の騒動の火種となった昂の行動理念を、分家である阿南家は認知することさえできないかもしれない。

それでも息子の安否を願い、輝明の母親は眸に不安を滲ませる。


「ねえ、輝明……」


輝明の母親の吐き出された想いが虚空を漂う。


きっと、息子の無事を願う輝明の母親の想いは、娘を想う玄の父親には届かない。

それでも空から射し込まれた陽の光は、輝明の母親の心の中にだけひときわ強く焼き付いた。


「あなた達がこれからどうするのか、どう動いていくのは分からない。でも、あなた達だけは絶対に私が守るから」


過ぎ行く過去の過ちとともに、輝明の母親は牢乎たる志を示す。


黒峯家の者達によって告知された議題の賓客であったーー昂の欠席による会合の中止という情報が、魔術の家系の者達の間で物議を醸している。

その影響により、黒峯家の会合に招かれた魔術の本家の者達は議題にあがっていた昂の存在を知るよしもなく本家へと帰還させられた。

会合の主催者である文哉は賓客でありながら奇襲を仕掛けてきた昂達の対処に回った結果、後々まで屋敷で後始末に追われていた。

なおかつ、魔術の本家の者達である玄の父親と陽向を撤退に追い込み、そして由良家と神無月家の代表者である文月と夕薙を相手取っても怯まなかった不屈不撓の昂達。

黒峯家の会合の現場で起きた事変をきっかけに、昂は魔術の本家の者達から様々な観点から注目を集めている。

しかし、輝明の母親には今回の昂の訪問に対して腑に落ちないことがあった。


「それにしても舞波昂は黒峯家の会合を反故したり、何故、あのような格好でここを訪れたのでしょうか?」

「お嬢様、それは儂にも判断つきかねません。ですが、舞波昂が魔術の本家の者達から注目を浴びているのは事実。後々のためにお会いしておくことに越したことはありません」


頭を下げていた老人はーー焔の祖父は、そこで意図的に笑みを浮かべる。


「それに輝明様の力で時を止める極大魔術ーー時間の概念という戒めから解き放たれた瀬生綾花も興味深い存在です。輝明様の力もいずれ、魔術の家系の者達から注目を浴びることになるでしょう」


淡々と告げられる事実。

今回の騒動の火種となった昂の力を見極める。

そのための駆け引きをこの場で行う。


それを成し得るために、焔の祖父は決然とした態度で宣言する。


「魔術の本家の者達は既に舞波昂だけではなく、輝明様の動向にも注目しております」

「その輝明に、もしものことがあったらどうするのですか?」


顔を上げた焔の祖父は輝明の母親の追及を受け止める。

彼女が見せる真摯な瞳。

その中に隠された不安と戸惑いを、焔の祖父は甘んじて受け止めた。


「お嬢様、申し訳ございません。ですが、輝明様の警護は焔だけではなく別の者達も行っています。今回の舞波昂の訪問に際しても、万が一に備えて厳重な警備体制を敷いております」


淡々とした口調の中に、輝明の母親は焔の祖父の抱えたものの根深さを垣間見る。

焔の家系は阿南家の家主の家系を守護する役目を携わっている。

それは言ってみれば、たとえ同じ魔術の家系の者でも、阿南家に災禍を振り撒く者は容赦しないという信念の表れでもあった。

たとえ、それが魔術の本家の者達による刺客だとしても、阿南家の子息、輝明を必ず守り抜かねばならない。


「たとえ、魔術の本家の者達と遭遇したとしても、強固な警護が付いております輝明様に対して危害を加えることは厳しいでしょう」


少なくとも今は、魔術の本家の者達が輝明達に手を出してくることはない。

魔術の本家の者達は現在、昂という特異な存在の分析に追われている。

なおかつ他の分家の者達の動きも活発化し、『エキシビションマッチ戦』が迫っている状況である。

文月と夕薙はプロゲーマーとして『エキシビションマッチ戦』の対応に追われているはずだ。

魔術の本家、由良家と神無月家は恐らく、『エキシビションマッチ戦』で動きを見せることになる。

黒峯家も当面は問題を順繰りに片付けていけば良い、という地盤を確保しているはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ