第三十四章 根本的に阿南家が選ぶ道標②
昂の家の窓一面に広がった情景は茜色を写し取ったかのように幻想的だった。
麻白の心を宿した綾花も、彼女とともに生きる進も、彼女の側に立つ拓也達も、玄と大輝も、輝明と焔も。
憑依の儀式。
分魂の儀式。
そして、魔術の深淵に迫った軌跡の数々。
この場にいる者達はあの日々を越えてここに集っていた――。
「『クライン・ラビリンス』か……」
拓也はおもむろにオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦でダブル優勝したチーム、『クライン・ラビリンス』についてのことをネット上で検索してみた。
そして、表示された『最強のチーム』という評価の高さを見ながらこっそりとため息をつく。
拓也はあの時、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦の際に交わした元樹との会話を思い起こす。
オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦ーー。
玄達『ラグナロック』以外で一際、華々しい活躍を見せている二つのチームがあった。
進が度々、憑依している雅山あかりの兄、春斗がチームリーダーを務める『ラ・ピュセル』。
そして、魔術の家系の一人である輝明がチームリーダーを務める『クライン・ラビリンス』だ。
それぞれ、個性も指標も考え方も違っていたが、その剽悍さは他のチームの及ぶところではないように拓也には思えた。
『輝明さんがチームリーダーを務める『クライン・ラビリンス』って、玄達『ラグナロック』に匹敵するチームだったよな。前回の大会でも、あの玄達を翻弄していた……』
『ああ。オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームであり、また、第ニ回、第三回公式トーナメント大会のチーム戦の準優勝チームだ。輝明さんのことは、玄達や兄貴も一目置いているしな』
拓也の示唆に、元樹は記憶の糸を辿るように目を閉じる。
『兄貴も、輝明さんは油断できない相手だと言っていたからな』
『そういえば、布施先輩は玄達のことは何か言っていたのか?』
感慨に耽る元樹の発言を聞いて、拓也には率直な疑問が浮上してきた。
『兄貴は玄や大輝のことも警戒している。だが、輝明さんのことは特に注目しているみたいだな』
布施先輩が特に注目している輝明さんか。
拓也は今回の黒峯家の屋敷の騒動で生じた疑問を解くために、過去の記憶を掘り起こす。
あの頃は輝明さんが実は魔術の分家、阿南家の家主の息子だったなんて思わなかったなーー。
それだけ拓也達を取り巻く環境は大きく変容していた。
「舞波。『エキシビションマッチ戦』が開催される前に、阿南家の屋敷に行くことになるからな」
「我は断じて、そのような場所にはいかぬ!」
元樹が挙げた確定事項に、昂は憤慨し、己の心をさらけ出す。
「不可解な件の謎を解いたり、黒峯陽向に奇襲を仕掛ける作戦を練ったりと忙しい身だというのに、何故、この我が阿南家の屋敷というよく分からない場所に出向かなくてならんのだ!」
「強力な魔術の使い手達に対処するためだ!」
昂の抗議に、1年C組の担任は不愉快そうに言葉を返した。
それでも、昂は揺るぎない信念を示す。
「先生、何を言っているのだ! 我がいれば、魔術の本家の者など一捻りではないか! なにしろ、我は偉大なる未来の支配者なのだからな!」
「……まあ、舞波は存在自体が注目の的だからな」
昂の我田引水な意見に、元樹はもはや理論というより、直感でそう告げるしかなかった。
改めて、意識を切り替えた元樹は息巻く昂に対して根本的な直言を口にする。
「舞波。俺は陽向くんや魔術の本家の人達より、おまえの魔術の方が強力だと思う」
「うむ、確かにな」
核心に迫る元樹の弁に、昂は納得したように頷いてみせる。
呆気に取られている拓也に目配りしてみせると、元樹はさらに続けた。
「だからこそ、舞波、おまえの実力を披露するために阿南家の屋敷に来てほしい。綾を護るためには、おまえの魔術の誇示が必要不可欠になる。恐らく、おまえの魔術がさらなる真価を発揮しないと綾を護れそうもないからな」
「なるほどな。ついに我の存在を世間に流布する時が来たというわけだな」
元樹が示した妙案に、昂は腕を組むとこの上なく不敵な笑みを浮かべる。
「よかろう! 我が必ず、綾花ちゃん達をーー麻白ちゃんを黒峯蓮馬達や魔術の本家の者達の魔の手から護ってみせるのだ!」
「ありがとうな、舞波。俺達もできる限りのフォローをするな」
元樹の感謝の意に、昂は腰に手を当てると得意げに言う。
思わぬ展開に、拓也は困惑したように眉をひそめる。
「おい、元樹。どうする気だ?」
「これから俺達は、輝明さんと焔さんの協力を得るために阿南家の屋敷に行かないといけない。だが、肝心の舞波がいなくては話を聞いてもらえないかもしれないからな」
「……そういうことか」
元樹が挙げた懸念材料に、拓也は苦々しい表情で頷いた。




