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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
311/446

第三十ニ章 根本的に魔術の本家の妄執⑧

絶望から解き放たれた焔の望みは、輝明とともに魔術という概念を変容させることだ。

他の魔術の家系の分家ーー付属品で在りたくなくて、阿南家という魔術の本家本元を識ってもらいたくて。

けれど、それは叶わない。

魔術の才に秀でるものは弛まぬ努力だけで、たとえ今からそれを阿南家の家系の者達が積み重ねたとしても、結実するまでには多くの時を必要とする。

人々の視線は魔術の本元へと向けられ続けて、阿南家はこのまま停滞していく。

今のままでは、確実にーー。

だからこそ、焔はこれからの己の目的意識を、輝明のためだけに捧ぐ。

焔の考えを認める者に、阿南家を識る者に、阿南家の家主の息子という存在に全てを賭けていた。


「黒峯家、由良家、神無月家。魔術の本家であっても関係ない。僕はこれからも自身の決断で動く。それだけだ」


魔術の本家に抱く魔術の分家であるーー阿南家の劣等感。

そこを突くように、輝明の真剣な表情が一瞬で(みなぎ)る闘志に変わる。


「新たな魔術を産み出せる存在に関わっていけば、何か目新しい発見があるかもしれないな」

「……へえー、面白いじゃねぇか」


あらゆる魔術の家系の者達の関心が集まっている昂への解釈。


核心を突く輝明の理念に、焔はそれだけで納得したように表情に笑みを刻む。

輝明の口調に、他の阿南家の者達が抱いているような逡巡や不安の揺れはない。

輝明の振る舞いに、焔は心から安堵し、意思を固めた。


「輝明、俺はおまえの意思に従うぜ! 破天荒な奴が使う支離滅裂な魔術を見極めてみるのも楽しいかもしれねぇな!」


いつもの強気な輝明の言葉に、焔は断固たる口調で言い切る。

魔術書を管理していた名高い黒峯家の魔術の家系の者達に悪意はなく、他の魔術の家系の者達にも悪意はない。

それでも、本家である黒峯家で行われた議題の話を聞いて放っておいたら、阿南家の沽券にも関わる。

それは焔が魔術の本家に抱く確かな意地だった。


「母さん達に事情を話したら、チームのみんなで『エキシビションマッチ戦』の打ち合わせをしないといけないな。由良文月、神無月夕薙。先程の戦いがうやむやになったことも込めて、僕達のチームに勝ったことを後悔させてやる」


意思を固めた輝明はその顔に確かな決意の色を乗せた。

そして、自身が描く想いを幻視する。


「魔術の本家、由良文月と神無月夕薙にゲームでも戦うことになるのか。……ったく、最高に気分がいいぜ!」


静かな言葉に込められた有無を言わせぬ強い意思。

輝明の凛とした声に、焔は魔術の本家の者である文月と夕薙、二人と大会会場で邂逅する瞬間を想起して歓喜した。

以前の『エキシビションマッチ戦』で、玄と輝明に勝ったプロゲーマーの中で最強と名高い由良文月。

そして、彼女に次ぐ実力者である神無月夕薙。

輝明は事実を噛みしめるように、確固たる決意を示す。


「僕達が『エキシビションマッチ戦』を制覇するためには、由良文月を含めて、プロゲーマー達に勝つ必要がある」


吹っ切れたような言葉とともに、輝明はまっすぐに焔を見つめる。


「由良文月、そしてプロゲーマー達。僕達のチームに勝ったことを後悔させてやる」


『チェイン・リンケージ』のモーションランキングシステム内で、二位のプレイヤーであり、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームのリーダーでもある輝明。

かって最強の名をほしいままにしていた輝明は、『エキシビションマッチ戦』で垣間見たプロゲーマー達のその凄まじい速度と機敏さを前にしても、特段気にも止めなかった。

しかし、その後の『エキシビションマッチ戦』の大将戦での敗退、そして、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第ニ回、第三回公式トーナメント大会のチーム戦で玄達、『ラグナロック』に二度も敗北したことで、輝明は本格的にチーム戦への移行を決めた。


『輝明くん、まだまだですね~。でもでも、かなり強いです。良かったら、私達の所属するゲーム会社でプロゲーマーになりませんか?』


屈辱的な言葉とともに告げられた勧誘の誘い。

『クライン・ラビリンス』に勝った由良文月達、プロゲーマーを全力で叩き潰すことだけを考える。


オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーは、大会などに出場できない代わりに大会の進行役や模擬戦などをおこなったり、初心者にゲームを教えたりして収入を得ている。

また、公式トーナメント大会の個人戦の優勝者、準優勝者、チーム戦の優勝チーム、準優勝チームが挑戦できる『エキシビションマッチ戦』の対戦相手としても活躍していた。


先程の戦闘を繰り広げた魔術の本家の者達が、今度はプロゲーマーとして『エキシビションマッチ戦』の対戦相手として立ちはだかる。

まるで長き、永き封印から解き放たれたように、焔は両手を広げて空を仰いだ。


「輝明、絶対に勝てよ。輝明は俺が唯一、認めた仕えるべき主君なんだからよ。魔術の面でもゲームの面でも、あいつらより弱かったら話にならないぜ!」


焔は心中で主君である輝明に忠誠を誓いながらも、その表情は凶悪に笑っていた。

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