第三十章 根本的に魔術の本家の妄執⑥
「また、みんなに会いたいな」
綾花はあの日の懐かしくも心地よい喧騒を思い起こす。
昔日を求めた綾花の声は硬く、胸を締め付けられるような寂寥感を捉える。
綾花は記憶を辿るように、クラスメイト達との想い出を脳裏に思い描いていく。
それは、高校の入学式の時に、クラスのみんなで一緒に写真を撮った時の出来事。
『よし、みんなで写真、撮ろうぜ』
『いいな!』
クラスのみんなに誘われて、進は集合写真を撮るためにみんなのもとに駆け寄る。
進が明るい顔でピースサインを形作ると、周りのみんなも進の肩に手をかけ、 晴れやかな表情を浮かべていた。
『何だか、すごい男の子だな』
談笑する生徒達で溢れ返っている進の近くで、倉持ほのかは声をかけるのを躊躇い、恥ずかしそうに顔を赤らめる。
進がそこにいたという事実。
それは玄の父親がどんなに足掻いても麻白を生き返せないように、決して取り戻せない儚い日々。
綾花はーー進はただ、その事実を甘んじて受け入れるしかなかった。
「俺はーーあたしはーー私達は輝明さんと焔さんのことを仲間だと思っているから」
「へえー、揃い揃って俺達のことを仲間だと言って来やがったか! 最高に気分がいいぜ!」
途中で口振りを変えながら告げた綾花の真摯な懇願。
それとは裏腹に、焔は嘲笑うような仕草でそう言ってのける。
「輝明さん、焔さん?」
「拒否は認めねぇ。おまえらにはもう一度、阿南家に来てもらうぜ」
拓也の疑問に発したのは、提案でも懐柔でもなく、断固とした命令。
「なっ!」
驚愕に満ちた拓也の視線など一顧だにせず、焔は不敵に笑う。
心中で主君である輝明に忠誠を誓いながらも、その表情は凶悪に笑っていた。
「なるほどな、そうきたか」
阿南家の動向を把握した元樹は、状況を改善するために思考を走らせる。
詰まるところ、阿南家の屋敷への招待と表した阿南家の家主の息子とその従者への協力を請う場への出席を求めているということだ。
恐らく、魔術の分家である阿南家は、今回の騒動の火種となった昂の事を知りたいのだろう。
黒峯家の者達によって、議題の賓客ーー昂の欠席による会合の中止が告知された。
その影響により、黒峯家の会合に招かれた魔術の本家の者達は議題を聞くこともなく本家へと帰還させられた。
主催者である文哉は賓客でありながら奇襲を仕掛けてきた昂達の対処に回った結果、今も屋敷で後始末に追われている。
なおかつ、魔術の本家の者達である玄の父親と陽向を撤退に追い込み、そして由良家と神無月家の代表者である文月と夕薙を相手取っても怯まなかった不屈不撓の昂達。
今回の事変をきっかけに、昂は魔術の本家の者達から様々な観点から注目を集めていた。
「今後もおまえらに協力するには、いつも辛気臭い話をしている奴らを認めさせる必要があるってことだな」
焔の目論見ーーそれは停滞を選んでいる魔術の分家である阿南家の者達を動かすこと。
昂を要に魔術の本家の者達の動きが活発化していることを理由に、阿南家の者達は傍観を決め込んでいる。
『あらゆる隔たりも関係ねえ! 俺は阿南家の存在を、魔術の本家の者ども、他の魔術の家系の者どもにーー世間に認めさせたいんだ……!』
以前、焔が語った理想、しかし阿南家の者達の中にはそれは必要ないと断じている者もいるはずだ。
だが、魔術の本家、黒峯家の屋敷に賓客として招かれた昂が全てを台無しにしたと知れば、阿南家の者達は迷わず、昂に関する議題を進めるだろう。
そこに乱入すれば、阿南家の者達は元凶である昂へと着目する。
焔の目論見はそこにあった。
「我は断じて、そのような場所にはいかぬ!」
しかし、肝心の昂は阿南家に行くよりも再度、陽向の病室に赴く決意を固めつつあった。
そして、陽向の病室に行くための邪魔な障害を全て排斥しようとしている。
「我がこれから赴く場所は黒峯陽向の病室だ!! 我の偉大な魔術書は、もはや誰にも渡さぬ!! そして、綾花ちゃんを絶対に護ってみせるのだ!!」
昂は絶対防壁を展開すると言わんばかりに、両手を目一杯に広げる。
「しかし、我の影武者達が再び、反乱を起こした原因はなんなのだ? 黒峯蓮馬達ではないとすると、我の魔術を封じた者達の誰かということになるではないか?」
昂は疑心の眼差しを拓也達に向ける。
それに拓也達が応える前に、昂は両手を握りしめて意気込みを語った。
「それにしても何故、黒峯蓮馬達に奪われた我の魔術書がいまだに戻ってこないのだ! おのれ~。かくなる上は、我の魔術を使って、魔術書を探すべきーー」
「あのな……。だから、陽向くんが入院している総合病院の近くでそんな魔術を使ったら、魔術書の場所が陽向くんや黒峯蓮馬さん達にバレるだろう!」
居丈高な態度で取り返しのつかない過ちを行おうとする昂に対して、元樹は呆れたように眉根を寄せる。
「それに操られていた舞波の分身体達は魔術書を手に入れようとしていた。その魔術を感知したら今回、仕掛けてきた人は舞波と陽向くん、どちらの魔術書も手に入れようとしてくるかもしれない」
最悪の事態が元樹の脳裏に駆け巡った。




