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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
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第ニ十三章 根本的に灰塵に帰す⑦

「だからこそ、『時間を停止する魔術』は使えなかった。そもそも、時間を停止させるなんて、舞波が使う魔術ーーいや、世界の概念を越えている事象だからな」


茨のそれにも見えた玄の父親の道程は未だ、その終わりを見せてはいなかった。


「極大魔術を行使することは、あらゆる世界線の概念を壊す危険性を孕んでいる。だからあの時、黒峯蓮馬さんは世界の概念を壊す危険性を帯びている代物だと語ったんだ」

「布施元樹くん。君はやはり、鋭いな」


元樹の指摘に、玄の父親は目を伏せると静かにこう告げる。


「確かに、私達が今まで『時間を停止する魔術』ーー極大魔術を使わなかったのは世界の概念を壊す危険性を帯びていたからだ。それに阿南家の者の力を借りなくては極大魔術を使うことはできない」

「阿南家の者の力?」


元樹が先を促したが、玄の父親はそれには答えずに大げさに肩をすくめてみせた。


「陽向くんは、私の魔術の知識によって魔術が使えている。陽向くんが魔術を使っている間は、私は身を守る程度の魔術の知識しか使うことができない。だが、極大魔術はこの概念さえも壊す力を秘めている」

「極大魔術の力……」


余裕の表情を浮かべる玄の父親を見て、拓也の隣にいた綾花が微かに肩を震わせる。

玄の父親があの日、赤裸々に語っていたのは魔術の知識に秘められた大いなる可能性。

昂が行使する魔術とは一線を画す力。

元樹はあの日の回想から答えを見出だす。


「陽向くんの魔術と魔術書の媒介。この二つがなくては、時間を停止させることはできない。黒峯蓮馬さんは前にそう言っていた」


元樹はあの時、玄の父親が口にしていた言葉を反芻した。


「だけど、あの時、黒峯蓮馬さん達には協力者である阿南焔さんがいた。陽向くんがこの場で極大魔術を行使するためには、阿南焔さん……もしくは輝明さんの助力が必要なのかもしれないな」


確信を持った眼差し。

その表情を見た瞬間、拓也は元樹の意図を理解した。


「そういうことか。陽向くんの魔術と魔術書の媒介。この二つがなくては、時間を停止させることはできない。だけど、陽向くんが極大魔術を行使するためには阿南家の人達の助力が必要なんだな」

「ああ」


それこそがあの日、玄の父親達が用いた魔術のからくり。

それほどの危険な魔術を行使しても麻白を求めているという証左。

拓也と元樹が行き着いた結論は、玄の父親の愛娘への愛情の深さだった。






「やはり許せぬ!  許せぬぞ!!」


昂は両拳を突き上げながら地団駄を踏んでわめき散らしていた。


「黒峯陽向が『時間を停止する魔術』という極大魔術というものを使うために、我の魔術書が消滅させられたという事実は許し難い行為なのだ!」


憤慨に任せて、昂はひとしきり陽向のことを罵った。ひたすら考えつく限りの罵詈雑言を口にし続ける。


「……おのれ、黒峯蓮馬と黒峯陽向め。我の魔術書を消滅させた元凶は断じて許せぬ。意気込んでいられるのも今のうちなのだ」

「昂くん、何か企んでいそうだね」


昂と陽向による、何度目かの交錯。

戦況は陽向へと有利に傾いていた。

それでも腕を組んでほくそ笑んでいる昂を見て、陽向は警戒するようにつぶやいた。


「我に不可能はない」


昂の自信に満ちた態度に、陽向は違和感を感じ、警戒を強める。


「昂くんは不可能だらけのような気がするけれど?」

「貴様に話す必要はない」


疑惑の視線を送る陽向に、昂は腰に手を当てると得意げに言う。


「何度聞かれようと、偉大なる我も極大魔術というものを使ってみたいということは口を裂けても言わないのだ!」

「……そうなんだね」


これ見よがしに昂が憮然とした態度で言うのを聞いて、陽向は苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。

実際に昂がそんな強大な魔術を行使したら、大変な状況に陥っていただろう。

少なくとも黒峯家の屋敷は灰塵に帰していたはずだ。


「黒峯陽向。貴様は今日、ここで我が引導を渡してやるのだ! 綾花ちゃんと我の魔術書は必ず、守ってみせるのだ! 悔い改めて諦めるのなら、今のうちだと考えるべきだ!」

「うーん。僕は諦めるつもりはないよ」


昂の挑発めいた発言に、陽向はきっぱりと応える。


「ならば、黒峯陽向、今こそ、我の魔術を食らうべきだ!」


陽向の恣意に応えるように、昂は裂帛の気合いを込めて魔術を放った。

意表をついた昂の魔術。

だが、それは口にした陽向ではなく、玄の父親へと向かっていく。


「叔父さんーーっ!?」

「ーー陽向くん、大丈夫だ」


駆け寄ろうとした陽向を制して、玄の父親は魔術の知識を用いて、昂の魔術から身を護る。

昂の突飛な行動が合図だったように、元樹は魔術道具を使って、一瞬で玄の父親のもとまで移動する。

そして、玄の父親の体勢を崩すために足払いをした。


「……っ!」


静と動。

本命とフェイント。

元樹は移動に魔術道具を用いて、玄の父親の意表を突くと、緩急をつけながら時間差攻撃に徹する。


「昂くんの不意討ちを利用して攻撃してくるとは、布施元樹くん。君はやはり、侮れないな」


昂の強力な魔術と巧妙な元樹の連携攻撃を、何とか防いだ玄の父親は忌々しそうにつぶやいた。


陽向が魔術を使っている時は、玄の父親は身を守る程度の魔術の知識しか使うことが出来ない。


その影響が及んで玄の父親自身は、元樹の陸上部で培った運動神経と魔術道具を用いた攻撃手段から身を守るだけで精一杯な状態である。

そこに昂の魔術が放たれた事で、玄の父親は次第に疲弊していた。

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