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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
296/446

第十七章 根本的に灰塵に帰す①

周囲が巻き込まれるのも構わず、破壊の限りを尽くす魔術の嵐。


「相変わらず、派手に騒ぐものだ……」


介錯のない魔術の威力に、結界を張り巡らせた文哉は辟易する。


「綾花、大丈夫か?」

「ああ、ありがとうな、井上」


魔術の嵐に巻き込まれた拓也と綾花は足止めを食らう。

幸い、負傷者は出なかったものの、昂と陽向が発した爆風によって吹き飛ばされている者達もいた。


「僕達まで巻き込まないでほしいですね」

「舞波昂くん、黒峯陽向くん、どちらもすごい力ですね~」


吹き飛ばされつつも、夕薙と文月は余裕を漂わせている。


「おいおい、よそ見していていいのかよ!」


その間隙を突くように、接近した焔が暴虐の魔術を駆使してくる。

だが、文月に対して放たれたその膨大な魔力は、割って入った夕薙によって阻止された。


「焔くん、まだまだですね~」

「文月さんは何もしていませんよ」

「えへへ、夕薙さんが私のこと、今は下の名前で呼んでくれて嬉しいです~」

「誤魔化さないでください」


夕薙と文月は焔の攻勢を前にしても攻め急がない。

端然と着こなす衣服を乱すこともなく、誘発された魔術に足取りを迷わせる事もなく、冷静沈着に距離を保っている。

ちなみに文月の方から下の名前で呼んでほしいと頼んでいた。

夕薙は輝明達の予備動作にあわせるように浮かび上がらせた焔に魔力を充填し、至近に照準を合わせる。


文月さんが告げたとおり、どちらも容赦ない攻撃ですね。

ただ、互いが互いの攻撃の対処に集中しているあまり、周りが見えていないようです。


昂と陽向が発揮した底知れぬ才能と実力に、夕薙は歓喜とともに胸を打ち震わせる。


「面白い子達ですね、舞波昂くんと黒峯陽向くん。二人とも将来が楽しみです。もちろん、阿南輝明くんと阿南焔くんも含めてですね」


輝明と焔の強い気概に、夕薙は強い感銘を受ける。

二人と激突することで以前、文月に挑んだ時の同じ熱い気持ちを滾らせていた。


「手強い相手だな」


機を窺う元樹は戦闘前に、昂に魔術を用いた作戦の共有を願い出ていた。

昂は既に陽向の魔術に苦戦しながらも、その方法ーー魔術でみんなに情報を伝達するという離れ業を実行している。

しかし、今回は文月が魔術を発動させて妨害に徹するかもしれない。

だが、元樹には輝明達というそれに対処するための勝算がある。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦。

玄の父親と陽向の時間を止めるという神業を担ったのは焔だった。

そして、綾花の身に奇跡を引き起こした輝明の未知の力。

魔術の分家とはいえ、阿南家の者達が持つ力は魔術の本家を凌駕する力を秘めているかもしれない。

とはいえ、魔術の本家の者達の力は侮れない。

巧みな戦術と経験を駆使して、卓越した魔術を自由自在に操ってくるだろう。


「元樹くんは相変わらず厄介だな」


昂と元樹との戦いを念頭に置きながらも、玄の父親は最優先事項である愛娘ーー麻白への想いを募らせていた。


文哉は昂に興味を抱いている。

本来なら昂くんと戦ってその力を見極めたいのだろうな。


「……違うな」


玄の父親は見るに堪えないほどに下手な嘘に嘆息した。

黒峯家の重鎮である文哉が何を求めているのか。

その答えを自分達は知っている。

先程抱いた確かなる本音ーーそれは自身が麻白達と戦いたかったという渇望だから。


「文哉も麻白達と対峙することで導き出そうとしているはずだ。私達と同じように、自身が求める答えを追求するためにな」


玄の父親は昂を賓客として招いた文哉の真意を汲む。


舞波昂。

魔術の家系ではないのに魔術を行使する存在。


文哉は嫌悪感を覚える相手に興味を示している。

一見すると脈絡が見えない。

誰かにそれを問われたら、文哉が返答に窮する存在ーーそれが昂だ。

だが、それでも文哉は昂の魔力の源を知りたかった。


「私と文哉は相容れない存在だが、互いに似た性格かもしれないな」


玄の父親は意図的に笑みを浮かべる。

自分さえ騙し得ない欺瞞に何の意味があろうというものなのか。

幾つかの局面において後悔が、あるいは失意が皆無であったとは言えない。

だからこそ、幾つもの局面において、この最悪は常に最愛だった。


麻白に麻白としての自覚を持たせる。

そして、麻白に自分達のもとに戻ってきてほしい。


玄の父親にとって、それは変わらない概念であり、何処までも繊細な色彩だった。

愛娘を失って変化の無い世界に訪れた色褪せない福音であるかのようだったからーー。


「叔父さん」

「陽向くん、大丈夫だ」


陽向にそう応えながらも、玄の父親は次の手を決めかねていた。

昂と輝明達の魔術という特異性だけではなく、魔術道具を巧みに使いこなしてくる元樹の手腕も侮ることはできないと感じていたからだ。


「昂くんは今まで自分に似た性格の者に会ったことはなさそうだな」

「むっ、我に似た性格の者だと。我と相容れない者は多く存在するが、我に似た性格の者など存在するはずがなかろう」


昂は腕を組むと傲慢不遜な態度で自信満々に答えた。

それは玄の父親が発した問いの答え。

もし実際に昂と同じ性格の者が昂の近くにいたら、非常に大変な事案が発生していたはずだろう。

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