第十四章 根本的に会合の出席者達⑥
魔術の本家の一つ、黒峯家には、芸術を媒介とする魔術が伝わっている。
その使い手の名を黒峯文哉。
己が青春を犠牲にして、その知と才を受けた者である。
「おいおい、よそ見していていいのかよ!」
その間隙を突くように、接近した焔が暴虐の魔術を駆使してくる。
だが、文月に対して放たれたその膨大な魔力は、割って入った夕薙によって阻止された。
「はあっ……、手が痺れました。文月さん、戦いに集中して頂けませんか?」
「えへへ……、油断大敵ですね~。なら、次は焔くんに倍返しできるように頑張りますね~」
口から突いた夕薙の苦言に、頬に手を当てた文月が上機嫌にはにかんだ。
聞き捨てならない言葉を聞いた焔は食ってかかる。
「はあっ、倍返し? 詭弁じゃねえのか。それが事実だというなら証明してみせろよ!」
真偽を確かめる言葉とは裏腹に、焔は既にそれが可能な相手だということを認知していた。
倍返しなんて詭弁に決まっている。
そう一笑に付せないだけの経験を、輝明と焔は現在進行形でしている。
これまでの戦いで魔術の本家の一つ、由良家と神無月家の実力を身を持って味わった。
だが、焔はそれでも魔術の本家の者達である文月達に牙を剥く。
焔が何より好むのは、主君である輝明が魔術の本家の者達である文月達を退けることなのだから。
「ご期待に添えるように頑張りますね~」
髪を靡かせた文月はにこやかに宣戦布告した。
「なら、やってみせろよ!」
焔はその隙間を縫うように接近する。
だが、焔が放とうとした暴虐の魔術は文月の魔術によって即座に消滅した。
「焔くん、まだまだですね~」
「へいへい、肝に免じておくぜ。……一応な」
文月が見せる真摯な瞳。
その中に隠された毅然と矜持を、焔は軽い笑いで受け流す。
余裕を見せる魔術の本家の一人である文月と夕薙の類い希な実力。
癪に障る文月の穏やかな物言いに、焔は不満を抱く。
「由良文月は、カウンター式の地形効果を変動させる魔術を使う侮れない実力の持ち主だ」
輝明は文月と夕薙を垣間見ながら鋭く目を細める。
焔は輝明と背中合わせに立ち回り、互いの死角を補い合う。
派手さはないが、輝明達の戦い方は堅実で隙が少ない。
「神無月夕薙は、地形変化による魔術によって相手を翻弄する。だが、由良文月の魔術は、相手からの魔術の発動によって効果を発揮するものだ」
吹っ切れたような言葉とともに、輝明はまっすぐに焔を見つめた。
文月と夕薙が行使する魔術は、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』で二人が使用する固有スキルに酷似している。
それは元樹の推測どおり、魔術の使い手達は自身が操る魔術を固有スキルに生かしている事に繋がっていた。
阿南輝明くんと阿南焔くんでしたか。
この歳でこれほどの強大な魔術を使えるのは、魔術の分家の一つ、阿南家にとって大きな財産でしょうか……。
ーーいや、魔術の本家としては自身の本家に迎え入れたいほどの実力の持ち主、阿南家にとっては秘匿していたい存在だったかもしれませんね。
膨大な魔力を秘めた輝明と焔の存在は、魔術の本家の者達にとって脅威でありつつも目を見張るものがある。
魔術の本家の者達としても、出来ることなら昂だけではなく、彼らの力の極限を見極めたいはずだ。
だからこそ――これからは全ての力がぶつかり合う総力戦だ。
魔術の深淵に迫る無尽の真理。
夕薙は肌でその緊迫を感じると同時に、空虚な心に満たされる歓喜で胸が打ち震えた。
夕薙がオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のゲームで使用する固有スキル、『戦域の守護者』。
それは矢を自由自在に操り、停止した矢を被爆させることができる固有スキルだ。
自身のキャラはダメージを受けず、回数制限以内ならいつでも使用することができるため、かなり厄介な固有スキルの部類に入る。
しかし、夕薙の固有スキル、『戦域の守護者』は、武器の予測不能な動きに対応しなくてはならないため、コントロールが非常に難しい。
その行動パターンを把握し、使用者の思惑どおりに動かすためには、相当の習練が必要になる。
そして、この固有スキルは夕薙が操る魔術をもとにしたものだった。
そしてーー文月がオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のゲームで使用する固有スキル、『星と月のソナタ』は相手からの必殺の連携技、そして固有スキルの発動によって効果を発揮する。
この固有スキルは文月が操る魔術をもとにしたものだった。
『星と月のソナタ』。
この魔術が発現した場合、昂や輝明達は魔術の発動ができない。
元樹の魔術道具の発動さえも封じられてしまう厄介な代物だった。




