第十一章 根本的に会合の出席者達③
意表をついた昂の魔術。
だが、それは口にした陽向ではなく、玄の父親へと向かっていく。
「叔父さんーーっ!?」
「ーー陽向くん、大丈夫だ」
駆け寄ろうとした陽向を制して、玄の父親は魔術の知識を用いて昂の魔術から身を護る。
「それを待っていたんだよな」
昂の突飛な行動が合図だったように、元樹は魔術道具を使って、一瞬で玄の父親のもとまで移動する。
そして、玄の父親の体勢を崩すために足払いをした。
「……っ!」
静と動。
本命とフェイント。
元樹は移動に魔術道具を用いて、玄の父親の意表を突くと緩急をつけながら時間差攻撃に徹する。
「昂くんの不意討ちを利用して攻撃してくるとは、布施元樹くん。君はやはり、侮れないな」
昂の強力な魔術と巧妙な元樹の連携攻撃を、何とか防いだ玄の父親は忌々しそうにつぶやいた。
陽向が魔術を使っている時は、玄の父親は身を守る程度の魔術の知識しか使うことが出来ない。
その影響が及んで玄の父親自身は、元樹の陸上部で培った運動神経と魔術道具を用いた攻撃手段から身を守るだけで精一杯な状態である。
そこに隙を突くように昂の魔術が放たれた事で、玄の父親は次第に疲弊していた。
「どうやら、不意討ちは成功したみたいだな」
「当然だ。偉大なる我が行ったことだからな」
先を見据えた元樹の言葉に、昂は苛立しげに答える。
元樹と昂。
陽向と玄の父親。
睨み合う四人の視線が、屋敷内で再び、不可視の火花を散らす。
先に動いたのは元樹と昂だった。
昂が魔術を放つための距離を取り、元樹は地面を蹴って、玄の父親との距離を詰める。
「今度は二人、同時にか?」
玄の父親はどちらを迎撃するか、判断を迫られる。
逡巡を巡らせ、ここは元樹に対処するべきだと玄の父親は判断した。
受けに回るのは得策ではない。
「これなら、どうだ!」
「くっ……!」
玄の父親より速く、元樹は攻撃態勢に入り、蹴りを振りかぶる。
それでも、玄の父親は魔術の知識を用いて、元樹の攻撃から身を護った。
元樹も怯まずに、蹴りと拳打のコンビネーションで攻め続けるが、玄の父親はそれすらも防いでしまう。
「ならば、黒峯蓮馬、我の魔術を喰らうべきだ!!」
そのタイミングで、昂は迷いなく、玄の父親に向かって魔術を放つ。
以前、陽向や玄の父親に放った魔術と同じように、玄の父親にだけ攻撃が及ぶように射程を絞っている。
そして、強力な魔術を放てるようにと、威力を一点に集めていた。
「おのれ~、黒峯蓮馬め!」
魔術を放った昂が地団駄を踏みながら、わめき散らしていた。
誰が見ても完璧な不意討ちを前にして、玄の父親が後退しながらも、魔術の知識の防壁を駆使して防いだからだ。
元樹と昂の連携攻撃。
だが、そこまでしても、玄の父親の魔術の知識による防壁を破ることには悪戦苦闘していた。
「もう随分、疲弊しているはずなのに、動きが鈍らないな。ならーー」
元樹は玄の父親の隙を作るために床を蹴り、接近する。
「元樹くん、止まーー」
迷いなく突っ込んできた元樹に合わせ、前に出た陽向が魔術を使おうとする。
陽向の行動を確認すると同時に、元樹は陸上部で培った運動神経を用いて急制動をかけた。
「えっ?」
「舞波!」
「むっ、分かっているのだ!」
魔術をかけられる前に、敢えて止まってみせる。
予想外の行動を前にして戸惑う陽向とは裏腹に、元樹は冷静に昂へと視線を向ける。
「黒峯陽向、今こそ、我の魔術を食らうべきだ!」
元樹の言葉に応えるように、昂は裂帛の気合いを込めて魔術を放った。
意表をついた昂の魔術。
だが、それは口にした陽向ではなく、玄の父親へと向かっていく。
「昂くん、残念だが同じ手は食わない」
玄の父親は魔術の知識を用いて、昂の魔術から身を護る防壁を生み出すと、即座に陽向に目配せした。
「陽向くん」
「うん。叔父さん、任せて!」
「……むっ!」
陽向は申し合わせたように、昂が放った魔術を相殺する。
「何故、我の魔術がこうもあっさりと相殺されるのだ! おのれ~。かくなる上は、我の全力の魔術を放つべきだ!」
「あのな……」
昂は居丈高な態度でわめき散らす。
だが、既に昂が本気で魔術を放っていることを認知している元樹は呆れたように眉根を寄せた。
「面白い子達ですね、阿南輝明くんと阿南焔くん。文月さんが興味を持つはずです」
輝明と焔が励起した強大無比な魔力に、夕薙は不思議な感慨を覚える。
二人の膨大な魔力を目の当たりにすることで、昂と戦った時の熱い気持ちが蘇ってくるようだった。
「焔くんの魔術も面白いですね~」
文月は意識を研ぎ澄まし、焔の魔力を察知する。
「へえー、魔術の本家の者達は随分、余裕だな。そんなこと言う余裕があるのかよ!」
焔の掲げた魔力が赤き輝きを纏う。
それはまるで意思を伴った焔。
遥かに待ち望んだ歓喜は、揺るぎない意思として暴虐の嵐へと変わる。
輝明達と文月達の魔力のぶつかり合いは激しく、その中に潜むものを捉えることは難しい。
真像も虚像も、全ては乱反射する魔術の中に紛れ込み、すっかり居場所を明かしてはくれない。
魔術の渦の最中では連続する焔と魔術の衝突音、無慈悲な破壊音が響いている。
だが、それこそが、輝明達と文月達が戦い合っている証左だった。




