第十章 根本的に会合の出席者達②
魔術の本家の者達。
そんな大層な者達、俺と輝明で蹴散らしてやるぜ。これは俺達なりの魔術の本家の者達に対する意地だ。
まるで焔の竜が長き、永き封印から解き放たれたようにーー。
焔は確固たる意思とともに両手を広げて空を仰いだ。
「……なにしろ、輝明の魔力はあの黒峯蓮馬と黒峯陽向なんかよりも上なんだからよ。……ったく、最高に気分がいいぜ!」
焔は以前、輝明が大会会場で見せた魔力を思い起こして歓喜する。
「輝明は俺が唯一、認めた仕えるべき主君だ。魔術の本家の者達を退ける。それくらい出来なかったら話にならないぜ!」
焔は心中で主君である輝明に忠誠を誓いながらも、その表情は凶悪に笑っていた。
世界はいつでも容易く歪む。
日常が非日常へと。
安息が崩壊へと。
斯様な出来事は誰に、いつ訪れるとも限らぬものだ。
「会合が中止……!?」
黒峯家の会合に招かれた魔術の本家の者達は思わぬ事態に見舞われていた。
主催者である文哉が今も、賓客でありながら奇襲を仕掛けてきた昂達の対処に追われている。
なおかつ、魔術の本家の者達である玄の父親と陽向、そして由良家と神無月家の代表者である文月と夕薙が昂達を相手取るため、会合への不参加を表明してきたのだ。
このような状況では会合を行うわけにはいかない。
黒峯家の者達によって、議題の賓客ーー昂の欠席による会合の中止が告知された。
「……っ、舞波昂ってどこの誰だよ。賓客として呼ばれたくせに奇襲を仕掛けてきた奴は」
当然、今回の会合に出席していた魔術の本家の者達の中には不満を口にする者もいた。
「今度から黒峯家の会合は奇襲禁止にしてもらわないとな」
無念を晴らすようにそうぼやきながら、魔術の本家の者達は黒峯家の屋敷を後にしようとする。
その時ーー
「むっ、奇襲禁止だと……。結論から言うと、奇襲禁止では我がすごく困るではないか!」
そう意見してきたのは玄の父親達と対峙していた見知らぬ少年。
黒いコートに身を包んだ怪しい格好の少年ーー昂にしれっとした態度で反論されて、魔術の本家の者達は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「奇襲禁止は困る……?」
「未来の支配者たる我が、黒峯家の会合に奇襲して颯爽と現れる。我が如何なる場合でも、このような重大なサプライズを行わないわけがないではないか!」
拳を突き上げた我田引水な昂の意見。
魔術の本家の者達は本能的にこの少年ーー昂に関わってはいけないと悟る。
「お、おい、行くぞ」
「……あ、ああ」
魔術の本家の者達は並走して早々に黒峯家の屋敷を走り去っていた。
「……これでは今後、この屋敷で舞波昂くんを招いて会合を行うことは困難になりそうだな」
魔術の家系の者ではない昂を、黒峯家の会合に賓客として招く。
当初の文哉の思惑は外れたが、期せずして文哉が関心を寄せている者達がこの場に揃い踏みになったことになる。
「舞波昂くん。君に宿る魔力の根源、この場で全貌を明らかにしてもらおうか」
文哉は今まで起きた魔術の騒動を想起する。
これから始まる魔術の戦いをより激しくするかのように。
魔術の本家の者達、由良家と神無月家は良い。
何者にも汚されない純粋な色だから。
魔術の分家の者達、阿南家の者達と遭遇できたのは喜ばしいことだ。
彼らのことを快く思っていない者達もいるが、それでも自身が求める純粋な色に近い。
敢えて、会合に招待しなかったことで、彼らは飛び入り参加をしてきた。
それこそ、願ったり叶ったりという形で。
だが、魔術の家系と関わりのない者が魔術を行使するのは最早、自身が求める純粋な色から程遠い。
故に、それを踏み荒らす輩には嫌悪感を覚える。
何も知らぬ汚れなき魔術の本流。
あの汚れなき色を手折ろうとするなど以ての外だ。
文哉が賓客として招いた会合を無下にして、玄の父親達との戦いを優先した愚かな存在。
嫌悪感を覚えつつも、その存在意義に今も興味を惹かれている。
玄の父親達と対峙している舞波昂ーー。
嫌悪感を覚える相手に、興味を示している。
一見すると脈絡が見えない。
誰かにそれを問われたら、文哉が返答に窮する存在ーーそれが昂だ。
だが、それでも文哉は昂の魔力の源を知りたかった。
「黒峯蓮馬。舞波昂くんの力を見極めるために、貴様の魔術の知識、利用させてもらおう」
魔術の知識の使い手、黒峯蓮馬。
魔術の知識という特異な力を持つ彼は、黒峯家の中でも特筆した存在だった。
文哉がいずれ乗り越えなくては存在。
だがそんな玄の父親を利用しても、文哉は昂の魔術の根元を解明したいと願っていた。
会合の主催者である文哉と相対するのは拓也と綾花。
魔術の知識の使い手である玄の父親と魔術の使い手である陽向に相対するのは元樹と昂。
魔術の本家の者達である文月と夕薙に相対するのは輝明と焔。
そして、その戦いの支援に回る美里達と相対するのは1年C組の担任と汐。
期せずして揃った綾花達は難敵である魔術の本家の者達へと挑む。
「黒峯蓮馬と黒峯陽向。今度こそ、我の凄さを知らしめてやるのだ!」
臨戦態勢となった昂は玄の父親達へと視線を注ぐ。
それに合わせるように、元樹は横に動いて一定の距離を保つ。
「拓也、綾のことを頼むな!」
「ああ、分かった」
元樹は拓也への信頼を残して風と征く。
「我は意地でも会合に出席するのだーー!! そして、綾花ちゃんも、我の魔術書も渡さないのだーー!!」
「……ねえ、昂くん。会合は中止になったみたいだよ」
「黒峯蓮馬、我の魔術を喰らって倒れるべきだ!!」
陽向の言い分を無視して、昂は裂帛の気合いを込めて魔術を放った。




