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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
288/446

第九章 根本的に会合の出席者達①

昂と陽向。

互いが互いの持ち札ーー魔術を知り得ている。

だからこそ、最適解といえる行動が瞬時に取れる。

しかし今回、戦っている場所は黒峯家の屋敷だ。

陽向は屋敷内の配置を認知しており、玄の父親と協力体制を取れる状態。

そして、強力な魔術を操る会合の主催者である文哉、そして魔術の本家の者である文月と夕薙の存在。

拓也達の方が場所の位置取りが不慣れな分、旗色が悪いように感じられた。

会話が停滞した魔術の戦場で、改めて言葉を発したのは昂である。


「偉大なる我を越える者は誰もおらぬ!!」


黒峯家の屋敷を背にして、昂は自らが掲げる理論を語り尽くす。


「我以外に魔術を使える者など本来、おらぬはずなのだ。おらぬはずなのに、黒峯陽向といい、黒峯家の者達といい、何故、こんなにも魔術を使える者達がいるのだ! 卑怯ではないか!」

「おい、昂!」


ところ構わず当たり散らす昂の様子に、綾花は眸に困惑の色を滲ませる。


「……お、おのれ~、黒峯蓮馬め! 貴様、黒峯家の者に根回しして、魔術の使い手は我しかいないと錯誤させるのが至上目的だったのだな!」


昂が玄の父親を罵るように遺憾なく声を張り上げる。

その様子を眺めていた元樹は腕を組んで考え込む仕草をすると、自身の矜持を必死に護ろうとしている昂の様子を物言いたげな瞳で見つめた。


「舞波は意外と焦っているのかもな」

「まあ、確かに、状況が状況だけに困惑しそうだな」

「ああ」


拓也の考慮に、元樹は肯定するように頷いた。

今回の魔術の騒動で生じた疑問を解くために、拓也は敢えて、過去の記憶を掘り起こす。


輝明さんを初めて知った頃。

あの頃は、輝明さんと関わりを持つことになるとは思わなかったなーー。


それだけ、拓也達を取り巻く環境は大きく変容していた。


『たとえ、進として振る舞っていなくても、進は進ですから』


拓也の脳裏に、あの日の進の母親の言葉が蘇る。

それは初めて、進の母親とともにショッピングモールに出かけた時の大切な思い出。

溢れる気持ちは言葉にはならずに熱となって喉元にせり上がる。


あの頃は綾花が舞波に惚れられたことによって降って湧いた、綾花に上岡を憑依させられたという事実は、ひたすら重くて厄介なものでしかないような気がしていた。

恐らく、黒峯蓮馬さんも同じ思いだったんだろうな。

でも、違う見方をすれば、それは俺達と黒峯蓮馬さん達を繋げた絆だと思う。

黒峯蓮馬さんが以前の麻白と繋がっているように、今の麻白とも繋がることができるはずだ。

そして、その絆はまた新たな絆を紡ぐことになると俺達は信じている。


戦いの果てにあるものはこれまでとは違う、確かな絆があるように拓也には思えたーー。


「拓也、俺は舞波と先生達と一緒に、黒峯蓮馬さん達の魔術に対抗するつもりだ」

「分かった。俺達は舞波を黒峯家の会合に招いたあの人と対峙する」

「ああ」


元樹の決然とした意思に、拓也と綾花は真剣な眼差しで応える。


「舞波を黒峯家の会合に招いたあの人が現れた時、黒峯蓮馬さんはかなり驚いていた。もしかしたら、黒峯家の重鎮を担う人なのかもしれない」


文哉は昂を賓客として会合に迎えることを、何らかの悲願であるかのように語っていた。

そこには魔術の家系ではないのに魔術が行使する昂への複雑怪奇な想いがあるからこその矜持。

尽きぬ波濤(はとう)、絶えざる連続性、(こぼ)れぬ決意。

だが、昂が会合にまともに出席する事はない。

もし実際に会合が行われていても、今と同じ状況になった可能性の方が高いだろう。


「舞波を黒峯家の会合に招いた人か……」

「井上。俺はーー俺達は井上の道を切り開いてみる。できる限りのことをしていくからな」

「ああ。綾花、ありがとうな」


綾花が一歩踏み出し進むごとに、前衛の拓也の心は早鐘のように打ち鳴らす。

綾花がーー綾花達が示す強い決意に、拓也の心は高揚していく。


俺達がここであの人に打ち負けたら、綾花は完全に麻白にされてしまうかもしれないーー。


幾度もなく立ち塞がる玄の父親達の固い意思。

拓也は改めて、綾花と進を失うかもしれない恐怖に鼓動が乱れた。


「綾花と上岡を絶対に守ってみせる!」

「ああ。綾と上岡を守ろうな」


綾花達を護る意志と確かな願い。

拓也と元樹は信頼するように言葉を交わし、それぞれの持ち場へ移動していく。


「……僕達は由良文月と神無月夕薙の虚を突く」

「……ああ、そうこなくちゃな」


そう告げる輝明の口調に、綾花達が抱いているような逡巡や戸惑いの揺れはない。

輝明の振る舞いに、焔は心から安堵し、魔術の施錠を打ち破る意思を固める。


「輝明、おまえは俺が唯一、認めた主君なんだからよ! 全てを覆せるだろう!」


いつもの強気な輝明の言葉に、焔は断固たる口調で言い切った。


「魔術の本家ーー由良家と神無月家の奴らの虚を突くのは、俺達の役目だ! 誰にも邪魔はさせねえ!」


最早、焔は寸毫として迷わなかった。

文月と夕薙。

魔術の本家としてもプロゲーマーとしても名高い二人と改めて、向き合う覚悟を決める。


「魔術の本家の者が、俺達を妨害してきたとしても関係ねえ! 俺は阿南家の存在を、魔術の本家の者ども、他の魔術の家系の者どもにーー世間に認めさせたいんだ……!」


理想を心に、けれど歩む道は実力が十分に伴っていないと進めない。

全てを成し遂げるためには、己の掌は余りにも小さ過ぎるのだと知っている。

だからこそ、焔は期待を込めた眼差しで主君である輝明を見つめた。

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