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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
287/446

第八章 根本的に在りしき日々は過去の残照⑧

「素晴らしい、素晴らしいぞ、我の魔術による猛攻は!」


期せずして始まった昂の語り口。

綾花は躊躇いの色を滲ませたまま、身ぶり手振りで当たり散らす昂を見つめる。


「まさに我は魔術の本家の者達をも翻弄する偉大なる未来の支配者、そして綾花ちゃん達を黒峯蓮馬と黒峯陽向の魔の手から颯爽と救う救世主ではないか!」

「……舞波はどんな状況でも相変わらずだな」

「……ああ」


昂の熱意がこもった発意に、拓也と元樹は少なからず、驚異の念を抱いていた。


「黒峯文哉さんと由良文月さん……」


陽向は嬉々として答えを求めるように玄の父親を見上げた。


「叔父さん。今回、僕達を招いた文哉さんは、昂くんに興味を示しているんだよね」

「ああ」

「あの人は、昂くんの魔力を見極めるために動いていたんだよね。昂くんが賓客として訪れるから、僕達を会合に呼んだんだよね」

「そうだ」


陽向の打てば響くような返答に、玄の父親は確信に満ちた顔で笑みを深める。


「……そうなんだ。あの人はどんな魔術を使うのかな?」


陽向は迷いを振り払うように、文哉の動向に注視した。


「黒峯陽向か。彼もまた、興味深い。黒峯蓮馬が使う魔術の知識という特異な力の結晶ともいえよう」


文哉は羨望の眼差しで陽向と玄の父親を見つめる。

一度、失ったはずの娘に固執する者。

魔術の知識の使い手、黒峯蓮馬。

魔術の知識という特異な力を持つ彼は、黒峯家の中でも特筆した存在だった。


「……相手の腹積もりは決まったみたいだな」

「……ったく、最高に気分がいいぜ! 魔術の本家の者達を出し抜くことができるんだからな!」


輝明と焔は先陣を切るように前に出る。


「行くぞ、綾花」

「ああ」


もはや、拓也と綾花は魔術の本家の者達と一戦を交えることを寸毫として迷わなかった。

拓也と綾花と改めて、今回の会合の主催者、文哉と向き合う覚悟を決める。


何度も激突してきた玄の父親と陽向。

今回の会合の主催者である文哉。

魔術の本家の者である文月と夕薙。

そして、強敵ばかりのこの状況でも戦意を高ぶらせて敵味方関係なく意表を突いてくる昂。


会合の主催者である文哉が自らこの場にいる以上、もはや黒峯家の会合が行われることはないだろう。

魔術の本家の者達との戦闘の激化は不可逆のものになっていた。


「黒峯蓮馬さんの魔術の知識と陽向くんの魔術。そして、神無月夕薙さん達を始めとした魔術の本家の者達。卓越した技量を持つ魔術の使い手を相手に、俺達は立ち向かわなくてはならない」


機会を窺う元樹の思考は、さらに加速化する。


「だけど、もう黒峯家の会合に出席することはできそうもないな」


僅かに焦燥感を抱えたまま、元樹は先の情勢を見据えた。


「おいおい、もう会合の時間が過ぎているんじゃないのか? こんなところで会合の主催者が賓客の出迎えをしていていいのかよ?」

「会合の時間、もう過ぎているのか……」


焔が発した檄は、少なくとも拓也達を震撼させるものだった。

だが、焔の挑発など、文哉は歯牙にもかけない。


「魔術の分家、阿南家の者達の実力を見せてもらおう」


文哉が見せる真摯な姿勢。

その中に隠された決意と確固たる意思を、焔は軽い笑いで受け流す。


「おいおい。俺の疑問は無視かよ! 会合の主催者は招待した奴らしか歓迎しないのかよ?」

「魔術の分家、阿南家の者達。少なくとも私は君達の介入を歓迎している。黒峯蓮馬と黒峯陽向、そしてこの場にいる魔術の本家の者達も同じ思いだと思っている」


焔の発した戯言に、文哉は抑えようとしても抑えることのできない情動を抱く。


「だからこそ、私達はこの場に集った。君達という輝きに惹かれて」


それは何の前触れもなく、唐突に文哉によって布告された。


舞波昂。

魔術の家系ではないのに魔術を行使する存在。


嫌悪感を覚える相手に、興味を示している。

一見すると脈絡が見えない。

誰かにそれを問われたら、文哉が返答に窮する存在ーーそれが昂だ。

だが、それでも文哉は昂の魔力の源を知りたかった。

文哉の心算に同調するように、陽向は(かたり)のごときリズムで言葉を放つ。


「……やっぱり、昂くんの魔力って奥が深いね」


魔術の家系とは無関係な昂が魔術を使えるという事実は、この上なく陽向の胸を打った。

それは陽向が型破りな昂の存在を知る前も、知った後も、変わることのなかった不変の事実。

媒介した魔術書に記載されているものだけだが、陽向は魔術を行使することができた。

それは一時的とはいえ、陽向は昂達と同じように魔術を使えるようになったといえるのかもしれない。

だからこそ、それを叶えてくれた玄の父親の力になりたいと願った。


「あの人の言葉どおり、僕は昂くんと輝明くんの輝きに惹かれたのかもしれないね」


陽向の脳裏に蘇るのは真っ白で、でも無機質ではない、残酷なほどに穏やかな空気が流れる病室。

病室という自分だけの世界から抜け出す力を授けてくれたのは玄の父親だった。

外の世界に目を向ける力を与えてくれたのは両親。

世界を知るための勇気を振り絞って出逢ったのは因縁の相手である昂。

様々な人との出会いが、それを教えてくれた事に陽向は気づいた。

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