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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
285/446

第六章 根本的に在りしき日々は過去の残照⑥

膨大な魔力が迸る戦場。

文哉の思惑は外れたが、期せずして魔術の本家の者達がこの場に揃い踏みとなった。

だが、それでも昂達を打ち倒すことはできない。

傍観していた文哉は率直に、元樹の戦術に称賛の意を示す。


「魔術道具をここまで使いこなす者がいるとはな」

「……やばいな。魔術の本家の人達の力は思っていた以上に強力だ」


感嘆の吐息を零す文哉とは裏腹に、元樹は必死としか言えない眼差しを文哉に向ける。

その言葉が、その表情が、元樹の焦燥を明らかに表現していた。

元樹と昂の攻撃は確かに玄の父親と陽向を翻弄している。

だが、次第に体力を消耗していく元樹達に対して、玄の父親の魔術の知識の防壁を破ることは出来ず、陽向はまるで疲れを知らないように平然と立っていた。

そして、夕薙は的確に二人の間隙を突いてくる。


「昂くんと元樹くんはすごいね。でも、僕達には勝てないよ」

「なかなか辛いな」


陽向は確信めいた口調で事実を口にした。

何度目かの攻防の後、元樹は息を吐きながらも陽向と距離を取る。

同時に陽向も浮遊して、万全の攻撃態勢を整える。

次の瞬間、元樹は魔術道具を使って、陽向の背後を取った。


「なっ!」


空高く飛翔しているからその背後を取ることなど不可能ーーそう考えたがゆえの唯一の死角は、ただ魔術道具を使った元樹にあっさりと突かれる。

振り返る前に蹴りを受け、体勢を崩した陽向はそのまま地へと落ちていった。

しかし、元樹の蹴りを食らったのにも関わらず、立ち上がった陽向は平然とした表情で服を整えている。


「僕のあらゆる魔術に対処するなんて、元樹くんはすごいよね」

「……このままじゃ、埒が明かないな」


余裕の表情で佇む陽向を前にして、魔術道具を用いて地上へと降り立った元樹は悔やむように唇を噛みしめた。


「でも、僕達には勝てないよ」

「だろうな」


陽向の自信に満ちた言葉に、元樹もまた、まっすぐに強気な笑みを返す。


「だけど、俺達の役目は陽向くん達を足止めすることだ。後は、時間が解決してくれるだろうしな」


確信を持った笑顔。

その表情を見た瞬間、陽向は不満そうに唇を尖らせた。


「何だか、元樹くんに見透かされているような気がする。でもーー」


陽向はそこで意図的に笑みを浮かべる。


「これでチェックメイトだよ」


陽向はどうしようもなく期待に満ちた表情で、ただ事実だけを口にした。

陽向が生み出したのはあまりにも膨大な魔力。

禍々しく渦を巻く破滅の魔術を内包した畏怖の力だった。


「おのれ……我の真価が発揮されるのは、今この時なのだ!」


愕然とする昂はそれでも諦めなかった。

1年C組の担任が、颯爽と昂のもとに迫っていたからだ。


「まだなのだ!」


立ち上がった昂は陽向と夕薙に向かって、多彩な魔術を何度も打ち込んでいく。

炎の魔術。水の魔術。風の魔術。大地の魔術。

陽向と夕薙はその全てを正面から弾き、避け、そして相殺して凌ぎきる。


「むっーー」

「昂くん、チェックメイトだよ!」


昂が驚きを口にしようとした瞬間、高く飛翔した陽向は更なる魔術を放った。


「……まだなのだ! 黒峯陽向、今こそ、我の魔術を食らうべきだ!」


陽向の魔力に応えるように、昂は裂帛の気合いを込めて魔術を放った。

意表をついた昂の魔術。

だが、それは口にした陽向ではなく、1年C組の担任へと向かっていく。


「えっ……? 味方に ……うわっ!」


滑るように迫る爆炎。

閃光と共に駆け抜ける衝撃波。

想定内の魔術ーー加速の魔術を受けて、1年C組の担任は一気に踏み込む。

陽向がそれを確認した瞬間、いつの間にか1年C組の担任の蹴り足が陽向を捉えていた。


「ーーっ」


それでも陽向は、1年C組の担任の次撃を寸前でいなした。

1年C組の担任も怯まずに蹴りと拳のコンビネーションで攻め続けるが、陽向はそれを魔術の防壁で見切り、凌ぎ切る。

1年C組の担任の連携の切れ間を的確に捉え、彼を打ち倒そうとした瞬間、閃光が両者の間に割って入ってきた。

汐のサポートを受けた昂が、陽向の動きを制したのだ。


「昂くんの先生達は、やっぱり手強いね」


陽向は次第に、昂による渾身の魔術、1年C組の担任と汐のコンビネーションに翻弄されていく。

時折、無理を強いる昂を休ませながら、1年C組の担任と汐は攻め続ける。


「これで人数は同じになりましたね。ですが、舞波昂くん、君達の分が悪いのは変わりません」

「かもな」

「むっ、我は決して負けぬ!」


宙に浮かんだ魔力の焔は、果たして幾つか。

夕薙の華麗な魔術を前に、元樹と昂は裂帛の気合いを込めて迎え撃つ。

屋敷全体を揺らす衝撃が、彼らの魔術の激しさを物語っていた。


「僕達はこの状況から何を成せばいい?」


激しく動く戦局を眺めながら、輝明は自問自答する。


「この状況を覆すためにはーー」

「『絶対的な強さと、それを補えるだけの個々の役目』……だろう?」


輝明が答えを発する前に、綾花は断定する形で結んだ。


「ああ、そうだな!」


輝明の心に確かな勇気が沸いてくる。


「魔術の本家の者達。おまえ達の思いどおりにはさせない。全てを覆すだけだ!」


自身が抱く確かな意思。

焔はその言葉を待っていたように愉しそうに笑みを浮かべる。


「……ああ、そうこなくちゃな」


そう告げる輝明の口調に、先程までの逡巡や不安の揺れはない。

輝明の振る舞いに、焔は心から安堵し、意思を固めた。


「輝明、おまえは俺が唯一、認めた主君なんだからよ! 全てを覆せるだろう!」


いつもの強気な輝明の言葉に、焔は断固たる口調で言い切る。


「魔術の本家ーーいや、陽向達の虚を突くのは俺達の役目だ! あらゆる隔たりも関係ねえ! 俺は阿南家の存在を、魔術の本家の者ども、他の魔術の家系の者どもにーー世間に認めさせたいんだ……!」


理想を心に、けれど歩む道には犠牲が十分に伴ってきた。

全てを拾うには、己の掌は余りにも小さ過ぎるのだと知っている。


(これは俺達の意地であり、確固たる信念だ)


だからこそ、焔は期待を込めた眼差しで主君である輝明を見つめた。

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