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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術革命編
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第一章 根本的に在りしき日々は過去の残照①

「初めまして、皆さん。僕は神無月夕薙。プロゲーマーの一人で、魔術の本家の一つ、神無月家の者です」

「むむむっ、貴様、我をここまで追い詰めた罪は重いのだーー!!」


昂の剣幕に、黒峯家の会合に遅れている自身を気にもせず、夕薙がぽつりと言う。


「皆さん。ようこそ、僕の戦域へ」

「むっ、我らに挑むつもりなら、返り討ちにしてくれよう」


宙に浮かんだ魔力の焔は、果たして幾つか。

夕薙の華麗な魔術を前に、昂は裂帛の気合いを込めて魔術を放つ。

屋敷全体を揺らす衝撃が、彼らの魔術の激しさを物語っていた。

その戦いを目の当たりにした警備員の一人が、他の警備員達に焦った声を掛ける。


「おい、文哉様に状況を報告するぞ!」

「だが、このままでは会合が……」


戸惑いを口にしようとしてーーしかし、続く警告に警備員は言葉を途切れさせた。


「相手が悪すぎる。俺達で対処できる範囲を越えているだろう」


警備員は何故、こんな事にという言葉を唇に乗せる。

しかし、迷ったのはその一瞬だけだった。

昂と夕薙の強大な魔力。

到底、自分達では対処する事は出来ない。

状況を把握した警備員達が、膨大な魔力の巻き添えを食う前に立ち去っていく。


舞波昂くんでしたか。

この規格外な魔術を使えるのは、僕の知る限り、文月さんを始めとした魔術の本家の者達だけでしょうか……。

ーーいや、先程、強大な魔術を放った魔術の分家の一つ、阿南家の方々がいましたね。


膨大な魔力を秘めた輝明と焔の存在は、魔術の本家の者達にとって脅威でありつつも目を見張るものがある。

魔術の本家の者達としても、出来ることなら昂だけではなく、彼らの力の極限を見極めたいはずだ。

だからこそ――これからは全ての力がぶつかり合う総力戦だ。


魔術の深淵に迫る無尽の真理。


夕薙は肌でその緊迫を感じると同時に、空虚な心に満たされる歓喜で胸が打ち震えた。


夕薙がオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のゲームで使用する固有スキル、『戦域の守護者』。

それは矢を自由自在に操り、停止した矢を被爆させることができる固有スキルだ。

自身のキャラはダメージを受けず、回数制限以内ならいつでも使用することができるため、かなり厄介な固有スキルの部類に入る。

しかし、夕薙の固有スキル、『戦域の守護者』は、武器の予測不能な動きに対応しなくてはならないため、コントロールが非常に難しい。

その行動パターンを把握し、使用者の思惑どおりに動かすためには、相当の習練が必要になる。

そして、この固有スキルは夕薙が操る魔術をもとにしたものだった。


「なるほどな」


昂から事情を聞いた元樹は、状況を改善するために思考を走らせる。


先生達を撒くほどの魔術の実力者。

加えて、玄や輝明さん達を倒すほどの実力を持っているプロゲーマー。


元樹のその疑問は論理を促進し、思考を加速させる。

そうして、導き出された結論は元樹が今の今まで考えもしない形をとった。


「もしかしたら、魔術の使い手は自身が操る魔術を固有スキルに生かしているのかもしれないな」

「なっ!」

「……っ」


予想外な真実を突き付けられて、拓也と綾花が目を見開く。


「それは舞波や輝明さん達にもいえることなのか?」


拓也が抱いた疑問に応えるように、元樹は推測を確信に変える。


「いや、舞波と輝明さんに関してはその法則とは異なるのかもしれないな」


確信を込めて静かに告げられた元樹の問いは、驚愕する玄の父親へと向けられていた。


「神無月夕薙くんまでがここに来たのか……。このままでは文哉や由良文月さんもこの場に訪れそうだな」


想定外な人物を目撃したように、玄の父親の背中を冷たい焦燥が伝う。

その玄の父親の反応が、夕薙の思考を裏付ける。


「元樹、これからどうするんだ?」

「黒峯蓮馬さんの魔術の知識の防壁は一度、破ったことがあるとはいえ厄介だ。時間制限がある陽向くんもかなりの強敵だ。そして、魔術の本家の一人、神無月夕薙さん。全てに置いて、八方塞がりの状況だ」


拓也の疑問に、元樹は記憶の糸を辿るように目を閉じる。


「黒峯蓮馬さんの魔術の知識と陽向くんの魔術の対処。そして、先生達と合流した後、俺の持っている魔術道具か、舞波の魔術を使ってこの場を対処していくしかないな」


機会を窺う元樹の思考は、さらに加速化する。


「奇襲作戦のつもりだったのに、逆に俺達の方が招かれている立場になったな」


僅かに焦燥感を抱えたまま、元樹は遠い目をする。


「先生達はもうすぐ来るみたいだが、恐らく考えられる限り、最悪に近い状況だな」

「……そうか」


元樹の言動に、拓也は複雑な表情を刻ませた。


「心配するなよ、拓也。状況は最悪かもしれないけどさ。俺達は今、こうして舞波と合流し、輝明さんと阿南焔さんという強力な協力者を得て、黒峯家の会合に向かおうとしているんだからな」

「……そうだな」


元樹の意志に、拓也は真剣な眼差しで輝明を見遣ると、どこか照れくさそうな笑みを浮かべる。


綾花がまた、綾花としていつでも笑えるように、と拓也達は心から願った。

そして、それは輝明達の協力によって、叶えられると信じている。


「遅くなってしまってすまない!」


拓也達が状況を示唆しているその間、夕薙の魔術によって遅れを取っていた1年C組の担任と汐が駆けつけてきた。

1年C組の担任と汐は周囲を阻む警備員達の包囲網を突き崩すために互いに連携を繋げる。


「汐、任せろ!」

「ダーリン、こちらは任せて!」


再び、取り囲もうとしてきた警備員達を、汐は行動を合わせてきた1年C組の担任とともに振り払っていく。


「社長の邪魔はさせません!」


その時、美里が新たな警備員達を連れて1年C組の担任達のもとへと駆け込んでくる。

だが、美里の追撃に対して、1年C組の担任がとった行動は早かった。


「汐、後は頼む!」

「うん、ダーリン」


綾花達の護衛を汐に任せると、1年C組の担任は屋敷の床を蹴った。

そして、警備員達の前まで移動する。

その見え透いた挙動に、警備員達の反応が完全に遅れたーーその時だった。

1年C組の担任は警備員達に素早く接敵すると、多彩な技を駆使して次々と警備員達を倒していく。

次の瞬間、美里の目に映ったのは床に倒れ伏す警備員達の姿と、冷然と立つ1年C組の担任の背中だった。


「ここまでだ」


1年C組の担任の断言に、美里の心は動かない。


「そうですね。あなた方はもうここまでです。あなた方は決して、ここから出ることは出来ませんから」


1年C組の担任の問いかけに真剣な口調で答えて、美里はまっすぐに会合が行われる場所を見つめた。

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