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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
魔術深淵編
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第六十四章 根本的に虚構戦役の革新⑧

「神無月夕薙、黒峯陽向と同様に我をここまで追い詰めた罪は重いのだ!!」

「……神無月夕薙か」


昂の熱き想いに呼応するように、輝明の幼い頃から育んだ魔力ーー堰き止めていた時が解けていく。


「由良文月と神無月夕薙。この二人はプロゲーマーであり、魔術の本家の者だ。神無月夕薙は魔術を操る力、プロゲーマーとしての実力、どちらもかなりの力量を持っていると言われている」

「神無月夕薙さん。あの舞波を追い詰めるなんて、実力は陽向くんと同等か、それ以上っていうことになるのか……」


静かな言葉に込められた有無を言わせぬ強い意思。

輝明の凛とした声に、拓也の表情が驚きに染まる。

魔術の本家と呼ばれている魔術の家系は、魔術書を管理していた黒峯家のみではない。

由良家と神無月家もまた、魔術の本家の一つとして名高い家系だった。


以前の『エキシビションマッチ戦』で、玄と輝明に勝ったプロゲーマーの中で最強と名高い由良文月。

そして、彼女に次ぐ実力者である神無月夕薙。


輝明は事実を噛みしめるように、確固たる決意を示す。


「神無月夕薙だけではない。僕達がこれから向かうことになる会合の場には由良文月がいるはずだ」


吹っ切れたような言葉とともに、輝明はまっすぐに悲壮感に包まれた綾花達を見つめる。


「黒峯家、由良家、神無月家。魔術の本家であっても関係ない」


魔術の本家でもあるプロゲーマー達に抱く、綾花達の心の迷い。

そこを突くように、輝明の真剣な表情が一瞬で(みなぎ)る闘志に変わる。


「僕達は、僕達のーー阿南家の役目を果たす。それだけだ」

「……ああ、そうこなくちゃな」


そう告げる輝明の口調に、綾花達が抱いていたような逡巡や不安の揺れはない。

輝明の振る舞いに、焔は心から安堵し、意思を固めた。


「輝明、おまえは俺が唯一、認めた主君なんだからよ!」


いつもの強気な輝明の言葉に、焔は断固たる口調で言い切る。

魔術書を管理していた名高い黒峯家の魔術の家系の者達に悪意はなく、他の魔術の家系の者達にも悪意はない。

それでも夕薙の挑戦を無視して会合の場に向かったら阿南家の沽券にも関わる。

それは焔が魔術の本家に抱く確かな意地だった。


「由良文月、神無月夕薙。僕達のチームに勝ったことを後悔させてやる」


意思を固めた輝明は、その顔に確かな決意の色を乗せた。

そして、自身が描く想いを幻視する。


輝明が導いた一意専心な方向性。


だが、昂は右顧左眄(うこさべん)して煮え切らない発言を繰り返していた。


「我は納得いかぬ! 神無月夕薙には一泡吹かせた後で、我に誠心誠意謝罪してもらうべきだ!」

「……っ」


持論を掲げる昂に何かを言い返そうとした拓也の声は、結局発されることは無かった。

言葉だけでの反論は幾らでもできたであろう。

だけど、その心が追随することはないと彼自身が理解していたから。


綾花と進。

あかりと麻白。

綾花への恋情。

それは綾花が四人分生きることになっても、変わる事のない不変の恋慕。


俺達は必ず、綾花達を守ってみせる!


拓也は不撓不屈(ふとうふくつ)の意思を示す。

綾花達の想いが希望を(もたら)す未来へと繋がるために。

そして、満たされていく胸の決意を示すために。


身体を張って前に出ると、拓也は元樹と連携して綾花を守るために動いていく。


「魔術の本家でもあるプロゲーマーの人達か」

「とにかく、偉大なる我は、黒峯蓮馬達の思い通りにはならないのだ!」


僅かに生じた綾花の躊躇いを拭い去るように、昂は苛立しげに答える。


「あれはーー」


昂を追って駆け寄ってきた夕薙は想定外の結果に思考を走らせた。

輝明と焔。

その威圧感は肌が粟立つほどに強烈で誰の肝胆も寒からしめるものだった。

否、それだけではない。

夕薙は元樹が持っているものが魔術が込められた代物ーー魔術道具だと察知する。


黒峯家の会合などつまらないものだと断じていましたが、これはこれは思わぬ拾い物ですね。

由良さんも喜んでいるのではないでしょうか……?


思わぬ強敵達との遭遇に、夕薙は歓喜とともに胸を打ち震わせた。


「面白い子ですね、舞波昂くん。あの文哉さんが興味を持つはずです」


昂の強い気概に、夕薙は不思議な感慨を覚える。

昂と激突することで以前、文月に挑んだ時の熱い気持ちが蘇ってくるようだった。


由良文月、神無月夕薙。

二人は魔術の本家の者であり、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーだった。

だからこそ、二人は以前から魔術の打ち合いによる模擬戦、そしてオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の対戦を重ねていた。


文月と初めてゲームで対戦した時を振り返る度に、夕薙の心に言い知れない感情が蘇る。

あの時、夕薙は怯まず、怯えず、正面から真正面に挑み、そのとてつもない強さに完膚なきまでに敗北してーー心から感激した。

二刀流の白銀の鎧に身を包んだ女性を操作しながら、卓越された動きと神業に近いそのテクニック。

完敗してなお、尊敬の念を抱かせる超然とした佇まい。

ゲームの世界にしろ、魔術の打ち合いによる模擬戦にしろ、常軌を逸した超越的存在というものが確かに存在するのだと夕薙は思った。

次話から新章、魔術革命編に入ります。

どうかよろしくお願い致します。

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